改訂新版 世界大百科事典 「モール塩」の意味・わかりやすい解説
モール塩 (モールえん)
Mohr's salt
化学式(NH4)2Fe(SO4)2・6H2O。化学名は硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム6水和物。硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4と硫酸アンモニウム(NH4)2SO4との複塩で,タットン塩と総称される複塩(一般式(NH4)2SO4・MgSO4・6H2O)と同形の結晶である。淡緑色の結晶。単斜晶系,格子定数a=9.28Å,b=12.58Å,c=6.22Å,β=106°50′。比重=1.864(20℃)。単塩であるFeSO4・7H2Oに比べて空気中で安定で,鉄(Ⅱ)イオンが酸化されにくく,また風解しない。K.F.モールがこの性質に着目し,容量分析の一つである酸化還元滴定の標準物質として導入したので名づけられた。過マンガン酸カリウムとの酸化還元反応は容量分析に利用される典型的な反応である。空気中で長期間に徐々に酸化されて鉄(Ⅲ)イオンを生じ,結晶表面が局所的に褐色を帯びるようになる。100℃以上では結晶水を失って風解し,さらに強熱すると水,アンモニア,硫酸アンモニウムを放出して分解する。水に対する溶解度12.5g/100g(0℃),40g/100g(50℃)。エチルアルコールに不溶。タットン塩と同形であるので,マグネシウムのほか,マンガン,ニッケル,亜鉛,鉛などを取り込みやすい。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報