2種以上の塩が結合した形式で書ける化合物のうち,それぞれの成分イオンがそのまま存在するものをいう。たとえばKCl・MgCl2はKMgCl3とも書けるが,[MgCl3]⁻のような錯イオンが存在するわけではなく,K⁺,Mg2⁺,Cl⁻のような独立したイオンが存在すると考えられる。したがって,これは複塩であるといえる。これに対しK2[PtCl4]は,2KCl・PtCl2とも書けるが,Pt2⁺やCl⁻,あるいはPtCl2などの存在は認められず,K⁺と錯イオン[PtCl4]2⁻が存在することがわかっており,これは錯塩であって複塩ではない。またたとえばミョウバンはK2SO4・Al2(SO4)3・24H2Oのように書かれ,形式的に複塩である。しかし実際の結晶構造は[K(H2O)6]2SO4・[Al(H2O)6]2(SO4)3であることがわかっているので,錯塩の複塩であるといえる。錯塩と複塩の区別は,以上のように構成するイオンによって決まるので,結晶の構造解析あるいは溶液中でのイオンを決定することによってなされる。したがって,古くその構造のわからぬまま形式的に複塩とされていたものでも,現在ではそうではないことのわかっているものもあり,むしろその多くが錯塩であるとされている。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
2種以上の塩が結合した形で表現される化合物(固体)のうち、各成分イオンがそれぞれのままで存在するものをいう。たとえばカーナル石KCl・MgCl2の中には、K+、Mg2+、Cl-のみがあり、[MgCl3]-のような原子団(錯イオン)はないから典型的な複塩である。一方、塩化白金酸カリウムK2PtCl6は、形式上2KCl・PtCl4と書けるが、この中にはCl-、Pt4+は存在せず、K+と[PtCl6]2-しかないので複塩とはよべない。
通常、複塩とよばれてきたもののなかにも、X線結晶解析の進展により構造が明らかにされると、複雑な錯イオンを含むものが、つまり錯塩であることが判明した例は少なくない。水分子の配位したアクアイオンも錯イオンに含める広義の定義を採用すると、複塩の典型とされてきたカリウムミョウバンKAl(SO4)2・12H2Oすら実は[K(OH2)6][Al(OH2)6](SO4)2の構造となっている錯塩である。したがって錯塩と複塩との区別に一線を画することは困難である。
[山崎 昶]
2種類以上の塩からなる高次化合物を分類するのに,溶解したときにその成分イオンに完全に分かれるものを複塩,そうでないものを錯塩と定義してきた.また,安定なものを錯塩,不安定なものを複塩としたこともあった.しかし,代表的な複塩とされていたミョウバンが,結晶解析の結果 [Al(H2O)6]3+ という錯イオンを含み,水に溶解したときも [Al(OH)(H2O)5]2+ という錯イオンになることがわかったので,上記の定義では不十分であり,結晶中に錯イオンを含まない高次化合物を複塩とする定義がもっとも妥当と思われる.すなわち,NH4HgCl3は,結晶中ではHgCl2とNH4Clとの付加物で,水に溶解したときに存在する [HgCl3]- や [HgCl4]2- の錯イオンを含まない.また,ドロマイトMgCO3・CaCO3も同様である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…また,たとえばCH3COONa・CH3COOHのような塩も拡張して酸性塩といい,BiCl(OH)2のような形式のものから水分子のとれたBiClOも塩基性塩といっている。ただ1種類の単純な塩,たとえばNaClなどを単塩というのに対し,2種以上の塩が成分として含まれている,たとえばKAl(SO4)2・12H2Oのような塩は複塩といっている。また錯イオンを含む塩は錯塩という(〈錯体〉の項目参照)。…
※「複塩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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