ラエネク
らえねく
René Théophile Hyacinthe Laennec
(1781―1826)
フランスの医学者。ブルターニュ地方カンペルの出身で、1801年パリに出た。シャリテ病院でコルビザールやその他の名医の指導を受け、1804年医学の学位を得た。経済的理由で開業したが、1813年サルペトリエル病院の戦傷病兵の診療にもあたり、臨床医としての評判をとり、知名人の患者も多かった。1816年ネッケル病院長に就任後は、患者の臨床症状と死後の剖検所見を対比検索して、病理解剖的研究を重視した。ここで聴診法を考案して木製聴診器を発明し、1819年、不朽の名著『間接聴診法』を発刊した。1822年シャリテ病院の臨床教授とコレージュ・ド・フランスの教授となり、翌1823年医学アカデミー会員となった。肝硬変症に「ラエネクの肝硬変」の名を残している。
[古川 明]
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ラエネク
René Théophile Hyacinthe Laennec
生没年:1781-1826
フランスの医師。聴診法の創始者,ラエネク肝硬変症の記載者。ブルターニュのカンペールに生まれる。シャリテ病院に入り,コルビザールに師事して医学を修める。1806年ボージョン病院の医員となり,病理解剖学的研究に関心をもつ。のちネッカー病院勤務。16年太った婦人を診察する際,小児の遊戯からヒントを得て,紙を巻いて管の形にし,それを胸に当てて音を聴いた。これが聴診法の初めであるが,のち木製とし聴診器stéthoscopeと名づけた。これは打診法についで物理的診断法の新生面を開いた著名な業績で,その成果を19年《間接聴診法De l'auscultation médiate》と題して公刊した。聴診器は日本には48年(嘉永1)に導入された。1822年フランス文部省直轄のコレージュ・ド・フランスの教授となったが,肺結核で死亡した。
執筆者:長門谷 洋治
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ラエネク
フランスの医学者。パリで医学を修め,病院長などを経て,1822年コレージュ・ド・フランス教授。聴診器を発明して,肺や心臓などの病気の診断に大きな進歩をもたらした。
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世界大百科事典(旧版)内のラエネクの言及
【医学】より
…ウィーンの[J.L.アウエンブルッガー]は打診法を発明した。パリの[R.ラエネク]は聴診器を発明した。これで,かなり情報量は増えることになる。…
【医療】より
… 聴診昔の医師は,患者の胸に直接耳をあてて,心音や呼吸音を聴取していた。聴診器は,フランスの医師R.T.H.ラエネクによって考案されたものであるが,その後多数の学者が改良を加え,今日のような両耳用の聴診器が生まれた。聴診器は主として肺音,心音,血管音を聴取し,これらの病的変化を知るために用いられる。…
【気管支喘息】より
… 本症が自然科学の対象として本格的に研究されはじめたのはルネサンス以降で,17世紀から18世紀にかけて,すでに本症が気管支の病気であり,発作の本態は気管支の収縮にあることが指摘された。近世に入り,聴診器を発明したR.ラエネクらは,気管支の収縮は,気管支平滑筋の収縮による神経性疾患であるとし(1819),このような考えは20世紀に入り,自律神経異常説の基礎となった。すなわち,自律神経は交感神経と副交感神経にわけられるが,前者は気管支拡張を,後者は気管支収縮をおこし,これらの異常が喘息発作に結びつくという考えである。…
【聴診】より
…18世紀初め,R.フックは,心臓の鼓動や腸のガスの動き,肺や関節の音についてふれ,〈体の内部の動きを,そこから発する音によって知ることができよう〉と予言した。このような身体の音の医学的応用が広く行われるようになったのは,1816年R.T.H.ラエネクによる聴診器の発明と,その後の聴診学の発展によっている。近年,X線写真をはじめとする診断技術の進歩のかげで,聴診学は軽視される傾向にあるが,最も簡便で患者に苦痛を与えない聴診法が,[打診]法とならんで,診断学の基本となっていることには変りはない。…
【聴診器】より
…[聴診]を行うために身体の外側から音を聴くための用具。1816年フランスのR.T.H.ラエネクによって発明された。それ以前の聴診は身体に直接耳を当てて聴く方法(直接聴診法)であった。…
【肺気腫】より
…[閉塞性肺疾患]の一つ。肺気腫の原語は,ギリシア語の〈ふくらます〉という意味をもっているemphysanに由来し,フランスのR.T.H.ラエネクによって名づけられた。本来,組織形態学的な概念で,肺胞が拡大して,壁の破壊が生じ,ふくらんだ状態をいう。…
【肺結核】より
…たとえば17世紀のオランダの医師F.シルビウスは結核結節について記載しているし,イギリスのベーリーMatthew Baillie(1761‐1823)も《人体諸器官の病的解剖学》(1793)において,肺結核について詳細に記載している。19世紀に入り,聴診器を考案したフランスの[R.T.H.ラエネク]は多数の結核患者の解剖から,肺結核を滲出型と増殖型に分けた(1819)。この考えは今でも失われていない。…
【ラッセル音】より
…囉音とも呼ばれ,呼吸器(肺や気管支)の病的状態の際にだけ発生する副雑音adventitious lung soundのこと。ラッセル音の分類は各国によってさまざまであり,必ずしも統一がとれているわけではないが,いずれもフランスのR.T.H.ラエネクによる《間接聴診法》(1819)の記載が出発点となっている。ラエネクの分類はやがてJ.フォーブズによってイギリスを経てアメリカやヨーロッパ各地へ広がった。…
※「ラエネク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」