ラカンドン(読み)らかんどん(英語表記)Lacandon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラカンドン」の意味・わかりやすい解説

ラカンドン
らかんどん
Lacandon

メキシコ南部、チアパス州東部の熱帯多雨林に生活するマヤ語系の先住民。いまでは数州に分住しており、言語人口は全国で約100人(1995)。他のメソアメリカ(中部アメリカ)の先住民集団と異なり、ラカンドンでは、服装における西欧化は、女性が男性に先行している。スペイン語併用率は100%に近い。

 ラカンドンは、長髪に貫頭衣という風貌(ふうぼう)、狩猟技術、バルチェ酒造り、そして植民地時代の記録にも残る勇猛な戦士としての伝説などのために、チアパス州で発見されているヤシチュラン、ボナンパクパレンケなどマヤ文明古典期(3~9世紀)の遺跡を建設した人々の子孫に擬せられることも多い。しかし、この地域は古典期にはチョル語圏だった可能性が高く、また伝説上のラカンドンと今日のラカンドンは別個の集団で、後者は19世紀にユカタン半島方面から移住してきた人々であることが、今日言語学的に確かめられている。密林西隣のチアパス高地のツォツィル、ツェルタル語圏の村々では、低地の危険な人々という伝説上のラカンドン像がいまなお語り伝えられており、祭礼に際して、扮装(ふんそう)した村人によって演じられることもある。

[落合一泰]

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改訂新版 世界大百科事典 「ラカンドン」の意味・わかりやすい解説

ラカンドン
Lacandon

メキシコ,チアパス州のグアテマラ国境近くの熱帯雨林に住むマヤ族末裔。人口約200。18世紀末,カトリック宣教師から逃れて姿を消したが,19世紀後半になって木材会社の進出を機に再発見された。第2次世界大戦後,チクレ採集者の奥地への進出とともにラカンドン社会の大規模な変容が起こった。この社会に階層差はなく,核家族が基本的単位であり外婚的父系氏族に統合される。交叉いとこ婚が好まれ,一夫多妻婚が一般的である。以前は,政治上の指導者と司祭が存在し,儀礼用の小屋をもち,トウモロコシ粉とバルチェ酒を神々にささげ,人面のついた陶器で香をたいて祈った。天上界,この世,地下界の存在を信じ,古代マヤにつながる世界観をもっていた。マヤの聖地ヤシチランへ巡礼にも行っていた。1940年代に最後の司祭が死去,儀礼上の知識が消滅し,病気治療法の大半も忘れ去られた。森林の奥深く隔絶されているが,外界との接触はとみに増え,観光化しつつある。
マヤ文化
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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