日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツォツィル」の意味・わかりやすい解説
ツォツィル
つぉつぃる
Tzotzil
メキシコ南部、チアパス高地の約20の村落に分住するマヤ語系の先住民。約26万(1995)のツォツィル語使用人口の半数以上がスペイン語も併用できる。おもにトウモロコシ、インゲンマメ、カボチャを焼畑農耕で栽培する。住民の大部分は村域内に散在する多数の集落で生活し、教会、役場、商店のある中心集落に行くのは、市(いち)の立つ日曜日か祭礼の日にほぼ限られる。この居住形態は、スペイン来航以前に起源をもつと考えられるが、植民地時代の集住化政策の影響を受けた村落もある。各村落は固有の社会組織をもち、内婚規制がみられる。ツォツィル語圏では土着的宗教とキリスト教との融合が進み、カトリックの聖人信仰を中心とした儀礼が挙行される一方、祈祷(きとう)医の活動や口承は、先コロンブス期の宇宙観を色濃く反映している。1528年にスペイン人がこの地方を征服して以来、入植者による圧政は甚だしく、18世紀初めと19世紀なかばには、多くのツォツィル村落を含むチアパス高地一帯で、先住民救済を求める「千年王国」的宗教運動に端を発する大規模な武装蜂起(ほうき)が発生した。植民地時代からサン・クリストバル市を中心とした経済圏の中にあるが、近年は土地を求めてチアパス高地東側の密林地帯にも進出しており、地元の先住民ラカンドンとの衝突が問題化している。また、ツォツィル先住民は、自主権と政治の民主化を求め1994年に武装蜂起したサパティスタ国民解放軍にも多く参加しており、先住民間の政治対立も頭在化している。
[落合一泰]