日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラミング」の意味・わかりやすい解説
ラミング
らみんぐ
George Eric Lamming
(1927―2022)
バルバドスの小説家、詩人、エッセイスト。1946年コリーモアFrank Collymore(1893―1980。1940、1950年代のカリブ海域文芸ルネサンスの中心的役割を演じたバルバドスの詩人)のすすめでトリニダードに渡り、ベネズエラ・カレッジで教えるかたわら詩作に没頭し、その詩が文芸誌『ビム』に掲載された。1950年以降ロンドンに移住し、BBC放送の「カリブの声」を担当しながら創作に励んだ。1974年にはバルバドスの労働者カレッジの創設に参画し、1975年に客員作家の資格でナイロビ大学とダルエス・サラーム大学に在籍した。1976年以降は、インド、オーストラリアの大学、アメリカのペンシルベニア大学、コーネル大学で教え、1980年には西インド大学から名誉博士号を贈られた。その間、トリニダードの小説家、歴史家、政治思想家であるジェームズCyril Lionel Robert James(1901―1989。カリブ海域のみならずアフリカ全域の植民地解放運動を思想面で支えたパン・アフリカ運動の大御所的存在)と親交を結び、そのマルクス主義的歴史解釈に強い感銘を受けた。小説の主要テーマは、カリブの民の根なし草的流民の自己検証とアイデンティティの追求で、モーム賞を受賞した代表作『わが皮膚の砦(とりで)の中で』(1953)のほか、移住地ロンドンで白人から浴びせられる人種的敵意をテーマとした小説『移民たち』(1954)、『水辺のイチゴ』(1971)、エッセイ集『亡命の喜び』(1960)、挫折(ざせつ)を味わって本土に帰還し、父祖の地で自立再建の道を探る小説『冒険の季節』(1960)、『われら先住民』(1971)がある。なお、1992年に彼のエッセイ、講演、インタビューを収めた『対話』が出版された。
[土屋 哲]