日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラ・ロッシュ」の意味・わかりやすい解説
ラ・ロッシュ
らろっしゅ
F. Hoffmann-La Roche Ltd.
スイスの医薬品会社。正称はエフ・ホフマン・ラ・ロッシュ。フリッツ・ホフマンFritz Hoffmann(1868―1920)が1896年バーゼルに創設した製薬工場に起源をもつ。ラ・ロッシュはフリッツの妻の旧姓。1918年、株式会社に組織を変更をするが、ホフマン一族が株式のほとんどを所有した。創業後、まもなくドイツ、イギリス、フランス、アメリカなどに進出し、積極的な海外戦略を展開した。1933年、ビタミンCの合成に成功し、その製品化に乗り出した。1938年にはビタミンE、1946年にはビタミンAの合成に成功した。精神安定剤の製造も早くから手がけ、同社の有力製品となった。
大学や研究所と連携をとりながら、基礎研究に力を入れ、スイス以外に、アメリカ、イギリス、日本に研究所を有している。1970年代に入り多角化を積極的に推し進めた。なお1938年カナダに設立したサパック社SAPAC Corporation Ltd.が、グループの第二の親会社としてアメリカ大陸、アジア地域を統轄している。
1989年にグループの持株会社としてロシュ・ホールディング社Roche Holding Ltd.を設立し、体制の革新と効率化を図った。1990年、アメリカのバイオテクノロジーのベンチャー企業ジェネンテック社Genentech, Inc.に資本参加、新技術による治療薬開発を強化した。また1997年、臨床診断薬の大手であるベーリンガー・マンハイム・グループBoehringer Mannheim Groupを傘下に収めた。2001年から2004年にかけて香水、ビタミン、一般向け医薬品などの関連子会社を売却し、事業を医薬品と診断薬の二つに集約した。
2009年の売上高は491億スイス・フラン。売上高の内訳は医薬品391億スイス・フラン、診断薬100億スイス・フラン。医薬品の地域別売上げの割合はアメリカ合衆国38%、西ヨーロッパ28%、日本12%、その他22%。診断薬の地域別売上げの割合はヨーロッパ・中近東・アフリカの合計が53%、北米26%、アジア太平洋10%、中南米6%、日本5%。営業利益は150億スイス・フラン。従業員数約8万1500人。
日本には1924年(大正13)に、エヌ・エス・ワイ合名会社を設立後、1932年(昭和7)に日本ロシュ株式会社として改組。1972年に研究所を設立し、1992年(平成4)、鎌倉に探索研究棟落成。1998年にはロシュ・ビタミン・ジャパン、ロシュ・ダイアグノスティックスをそれぞれ設立した。またこの間、1987年には日本ロシュの研究所において、世界に先駆けて抗癌剤(こうがんざい)のフルツロンを開発、商品化している。2002年に日本ロシュは中外(ちゅうがい)製薬と合併した(新社名は中外製薬)。
[湯沢 威・田村隆司]