日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ワインズバーグ・オハイオ
わいんずばーぐおはいお
Winesburg, Ohio : A Group of Tales of Ohio Small-town Life
アメリカの作家シャーウッド・アンダーソンの短編集。1919年刊。独立した24の物語で構成されるが、長編小説としてのまとまりをもつ。舞台は19世紀末のアメリカ中西部オハイオ州の架空の田舎(いなか)町ワインズバーグ。登場人物の大半は、愛と理解を求めながら、清教主義(ピューリタニズム)の因襲などに圧迫されて「壁の向こう側」で孤独と挫折(ざせつ)の生活を強いられる弱者――たとえば、教え子相手に同性愛の罪を犯したと誤解され迫害を受けて隠者として暮らす男や、寂しさに耐えきれず雨中に裸で飛び出す老嬢など。それらのグロテスクな内面心理の描出に、フロイト派の象徴的手法、誇張と歪曲(わいきょく)を特色とする表現主義的描法、あるいは筋立てにとらわれない印象主義的構成法が用いられている。土着の物語作者(ストーリーテラー)としての素朴な「語り」の表現法に、これらの前衛的技法が加わって生み出された特異な文体は、ヘミングウェイ、フォークナー、スタインベックをはじめとするアメリカ現代作家に大きな影響を与えた。
[小原広忠]
『橋本福夫訳『ワインズバーグ・オハイオ』『アンダスン短編集』(新潮文庫)』