アシハラガニ(英語表記)Helice tridens

改訂新版 世界大百科事典 「アシハラガニ」の意味・わかりやすい解説

アシハラガニ
Helice tridens

河口付近にすむ甲殻綱イワガニ科のカニで,青森県から沖縄まで分布するほか,韓国と台湾からも記録されている。甲幅は約3.5cm。甲はわずかに横長の四角形で,胃域,心域,鰓域(さいいき)が明らかである。甲の前側縁に三つの切れこみがある。眼窩(がんか)下縁に沿って雄では16~18個の顆粒(かりゆう)状突起が1列に並んでおり,はさみ脚の長節内縁にある稜とこすり合わせて発音する。大部分が灰緑色で,甲の縁やはさみ脚などは淡黄色。アシなどが茂る河口付近の湿地帯に穴を掘ってすみ,付近の堤防や田のあぜなどにも深い穴を掘る。穴は入口から少し奥で多少広くなり,深さ50cmに達することがある。春から初秋にかけて活動し,5~6月に交尾,産卵する。近縁種にヒメアシハラガニH.wuana(甲幅は約1.5cm),ミナミアシハラガニH.leachii(甲幅は約2.5cm)など7種が知られており,いずれも眼窩下縁に沿って並ぶ発音器の形状で区別される。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アシハラガニ」の意味・わかりやすい解説

アシハラガニ
あしはらがに / 葦原蟹
marsh crab
[学] Helice tridens

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目イワガニ科に属するカニ。青森県以南、沖縄、朝鮮半島、台湾に分布する日本近海の固有種。河口の湿地帯にすみ、アシ原にとくに多い。甲幅3.5センチメートルほどの四角形で、体に厚みがある。眼窩(がんか)外歯の後方に大きな歯が二つ、痕跡(こんせき)的な歯が一つある。眼窩下縁に沿って雄では16~18個、雌では三十数個の顆粒(かりゅう)が1列に並び、はさみ脚(あし)の長節にある稜(りょう)でこすって発音する。体は暗青緑色で、甲の前側縁と、はさみは黄色を帯びている。この属には日本、朝鮮半島、中国北部、台湾から8種が知られ、主として発音器官の違いで区別される。南日本にはヒメアシハラガニH. wuanaがみられ、沖縄にはリーチアシハラガニH. leachiiが多い。

武田正倫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アシハラガニ」の意味・わかりやすい解説

アシハラガニ
Helice tridens; marsh crab

軟甲綱十脚目モクズガニ科。甲は幅 3.5cmほどの四角形。眼窩の下縁に雄は 16~18個,雌は 32~34個の顆粒が並び,これを鋏脚の稜とすり合わせて音を出す。青森県から沖縄県,台湾,中国沿岸までの河口の湿地帯にすみ,特に草原に多い。南日本では小型種ニホンアシハラガニ Helicana japonica も普通に見られる。従来ヒメアシハラガニ Helice wuanaHelicana wuana)と呼ばれていた種は中国南部と台湾産である。(→甲殻類十脚類節足動物軟甲類

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android