アダプティブアンテナ(読み)あだぷてぃぶあんてな(英語表記)adaptive antenna

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アダプティブアンテナ
あだぷてぃぶあんてな
adaptive antenna

アンテナの一種。もともと受信アンテナとして考案されたアンテナ形式であるが、送信アンテナにも応用される。アメリカ電気電子技術者協会の電気電子用語集では、「アンテナ素子と回路素子を組み合わせ、最適なアンテナ特性が得られるように、受信信号をもとに制御できるようにしたアンテナシステム」と定義されている。これはかなり広い範囲を含む定義であり、通常は、アレーアンテナを構成する素子の振幅および位相(これをあわせて複素重みという)を「アダプティブアルゴリズム」を用いて決定するようにしたアンテナシステムをさす。アダプティブアルゴリズムとは、(1)アレーアンテナを構成する各素子アンテナ個々の受信出力、(2)個々の受信値に重みを掛けて足し合わせたアレーアンテナの出力、(3)制御のための、受信局で事前にわかっているなんらかの情報から各素子出力に対する複素重みを決定する手順であり、3種類の情報を使うことが特徴である。受信局で事前にわかっている情報としては、希望波(受信したい電波)信号のレプリカ、希望波の到来方向などが用いられる。これによりアンテナ出力では希望波方向からの受信電力と干渉電力および熱雑音電力の和との比が最大となる。このときアレーアンテナの指向性は希望波方向に対して最大となり、干渉波方向に対してはゼロとなる。このような受信特性は無線通信においてもっとも望ましい特性であり、1980年代までは軍事用が主たる応用分野であったが、1990年代以降移動体通信の発展に伴って、この分野への応用を目ざした研究開発が活発に行われている。
 ダイバーシティーアンテナによる受信レベルの向上や、複数のアンテナを用意したりマルチビームアンテナを用いてビームを選択するスイッチングアンテナも広義の定義としてはアダプティブアンテナに含めることができる。しかしこれらは普通アダプティブアンテナとはよばず区別している。アダプティブアンテナ、ダイバーシティーアンテナ、スイッチングアンテナは機能的に明確な構成条件があるのに対し、類似の言葉として「スマートアンテナ」や「インテリジェントアンテナ」があるが、これらは明確な構成条件が決まっているわけではない。
 アダプティブアンテナの原点は、1950年代に提案されたレトロディレクティブアレーアンテナ(電波の到来方向がわからなくてもその方向に自動的にビームを送信できるアンテナ)やセルフステアリングアレーアンテナ(位相同期ループを用いて各アンテナ素子の位相を制御し、希望波方向に同位相にして合成出力を得るアンテナ)とみなされているが、本格的なアダプティブアンテナの原理が考案されたのは、1960年代に入ってからである。
 アメリカのハウェルズPaul W. Howells(1921― )が大型の反射鏡アンテナのサイドローブに入ってくる妨害波を小さな補助アンテナを用いて打ち消すようにしたサイドローブキャンセラを発表した。これに続きアプルボームSidney P. Applebaum(1923― )が一般のアレーアンテナにより信号電力対雑音電力比(S/N比)を最大にする方法を提案した。一方スタンフォード大学のウイドローBernard Widrow(1929― )が提案した希望信号と受信信号の差の2乗が最小になるように制御する最小二乗平均誤差法(MMSE)は、デジタル移動通信との整合性がよく、実用的な通信システムへの応用の基礎となっている。
 アダプティブアンテナのハードウェアに関しては初期段階ではアナログ技術の時代であったので、主として中間周波数での信号処理が試みられた。しかし精密な位相調整を要することから実用的なアンテナを実現することは困難であった。1980年代後半からは、デジタル技術の進展に伴い、信号処理をベースバンド(信号の周波数帯域である低周波数帯域)で行うことが実用的なレベルとなり、ハードウェアの進展が急速に進んだ。1990年代末から2000年初頭にかけて、研究段階のものだけでなくPHS基地局アンテナに一部実用されるようになった。[鹿子嶋憲一]
『菊間信良著『アダプティブアンテナ技術』(2003・オーム社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

関連語をあわせて調べる

今日のキーワード

未必の故意

犯罪事実の発生を積極的には意図しないが、自分の行為からそのような事実が発生するかもしれないと思いながら、あえて実行する場合の心理状態。→故意[補説]作品名別項。→未必の故意...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android