日本大百科全書(ニッポニカ) 「アッピア」の意味・わかりやすい解説
アッピア
あっぴあ
Adolphe Appia
(1862―1928)
スイスの舞台美術家、演出家。G・クレイグと並んで現代舞台芸術の父といわれる。9月1日ジュネーブに生まれる。アッピア家はイタリア系の名門で、父ルイは赤十字創設者の一人。初め音楽家を志してパリに遊学、ついでライプツィヒ、ドレスデンに滞在したが、ワーグナーに傾倒し、一転して舞台芸術の革新に向かった。以後コポーやダルクローズらの支援を得て、ワーグナーの理念に基づく独自の反写実演劇活動を展開したが、保守陣営から激しい攻撃を浴びた。1923年にはミラノ・スカラ座に招かれて『トリスタンとイゾルデ』の美術を担当し、総監督トスカニーニの称賛を受けたが、大方には不評であった。翌1924年スイスのバーゼルの市立劇場に所属。1928年2月29日フランスのリヨン郊外の療養所で没した。その舞台活動の業績は数少なく、3冊の著述『ワーグナー劇の演出』(1894)、『音楽と演出』(1899)、『生きた芸術』(1921)のほか、数十枚の舞台デザインが残されているにすぎない。しかし、時間(詩と音楽)と空間(絵画と建築)の融合調和を、俳優の彫刻的律動性を通して実現しようとするその統合的な演劇理念は、光と影の効果を極限にまで推し進めた近代的照明法の開発とともに、現代演劇の展開に計り知れぬ影響を与えている。
[大島 勉]
『遠山静雄著『アドルフ・アピア』(1977・相模書房)』