改訂新版 世界大百科事典 「イモガイ」の意味・わかりやすい解説
イモガイ (芋貝)
cone shell
サトイモの子いものような形をしたイモガイ科Conidaeの巻貝の総称。日本産約120種。殻は通常高さ7~8cm,倒円錐形で厚く堅固,巻きは多いが通常低い。最後の巻きが大部分を占める。殻口は狭くて細長い。殻表は種類によって模様が異なるが,多くはその上にわら色の殻皮をかぶっていて,薄いときは模様が透けて見えるが,厚いときは子いもが皮をかぶっているようで模様は見えない。体は殻の中に深く引き込めるのでミナシガイの名もある。ふたは通常軟体に比べて小さく,ない種類もある。多くは熱帯地方の潮間帯や浅海の岩礁や砂泥底にすむが,アコメイモガイEndemoconus sieboldiのように水深200m以上の泥底にすむ種もある。軟体には口に1列に並ぶ矢のような形の歯がある。これは毒腺につながっていて,これでゴカイ類,貝類,魚類などの餌を突き刺すとその毒で麻酔されて動けなくなる。口をのばして広げ,餌を丸のみにする。神経性の毒であるが,魚類(多くは小型のハゼ類)を餌とするアンボイナガイGastridium geographusなどはとくに猛毒で,刺されると数秒で動けなくなる。ときに採取時に人が刺されて死ぬことがある。沖縄でも1927,35年に刺されて死亡したという記録がある。人のイモガイ類による刺傷の報告は1982年までに79例にも及んでいるが,死亡例(22人)はほとんどがアンボイナガイである。タガヤサンミナシガイDarioconus textileもその例とされるがはっきりしない。ほかはハチに刺されたくらいの程度まで種々である。夏季に産卵するが,卵囊は白色で扁平な四角形状,これを多数並列させて岩に産みつける。イモガイ類はサンゴ礁に多くの種類がいっしょにすむが,種類によって食べる餌のゴカイ類や貝類などの種類が異なっていて,食い分け現象が顕著であるが,イモガイが1種しかいないカリフォルニアの海域では,ゴカイ類や貝類など多くの種を選択せず食べている。
イモガイ類は美しい模様の種類が多くて収集家に珍重されるが,とくにウミノサカエイモガイD.gloriamarisは稀産として珍重され,3000ドルもしたことがあり,貝類標本中最高値とされたが,リュウグウオキナエビスガイEntemnotrochus rumphiiの1万ドルに抜かれた。現在はフィリピンなどで多く採集されるようになり昔日の値はしない。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報