他の動物に対して毒物としての作用を示す物質は,毒液venomないし動物毒素zootoxinと呼ばれるが,これらを分泌する腺をいう。毒ヘビ類の毒腺は唾液(だえき)腺の唇腺が変形したもので,毒牙に連絡している。ヘビの毒腺からは,呼吸中枢に作用し呼吸麻痺をおこさせる神経毒(コブラのオフィオトキシン,ガラガラヘビのクロトキシンなど),血管壁からの出血をおこし赤血球をこわす溶血毒(マムシのクロタロトキシン)などさまざまの毒素が分泌される。両生類,魚類には皮膚腺が毒液を分泌するものがある。ヒキガエルの耳旁(じぼう)腺はその例である。オニダルマオコゼ類やゴンズイでは背鰭棘(はいききよく)の基部の皮膚中にあり,棘を通じて毒が出される。ハチなど膜翅(まくし)目昆虫では腹部に毒腺があり,産卵管の変形した毒針stingに開口している。ハチ毒としては,神経毒のアパミンや溶血性ポリペプチドのメリチンのほか,ヒスタミン,ホスホリパーゼA2などがある。ムカデなどの唇脚類では口器に毒爪(どくそう)poison clawがあり,内部に毒腺が開口している。そのほか,サソリ類では尾節に,クモ類では上顎に毒腺がある。
執筆者:町田 武生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物がもつ腺で、他の動物に対して有毒な作用がある化学物質を分泌するものをいう。毒腺は、動物種によってさまざまな起源をもつ。爬虫(はちゅう)類の毒ヘビやドクトカゲの毒腺は、口腔(こうこう)腺から分化している。毒ヘビの場合は唇腺が、ドクトカゲの場合は舌下腺が変化したもので、ともに毒牙(どくが)に連なっている。両生類のヒキガエルの毒腺(耳腺)は、皮膚腺の一つである。魚類のゴンズイ、オコゼ、ミノカサゴ、アイゴなどでは背びれ、腹びれ、胸びれの基部に、アカエイでは尾部背面の棘(とげ)の基部に、それぞれ毒腺を有するが、ともに皮膚腺である。ウツボ類のなかには口蓋(こうがい)に毒腺を有するものがあり、歯でかむと同時に毒液を注入する。無脊椎(むせきつい)動物では、節足動物に毒腺をもつものが多い。ハチ類では雌の腹部に毒腺を有する。ムカデ、ゲジなどの唇脚類では、胴部の第1体節付属肢(顎肢(がくし))に毒腺を内蔵する。サソリの毒腺は尾節にあり、嚢(のう)状をした1対の腺である。クモの毒腺は頭胸部または基節にあり、上顎にある管状の牙(きば)に開口している。軟体動物では、イモガイ類の歯舌にある毒腺は名高く、アンボイナガイなどはヒトに対して致命的な毒素を分泌する。タコの毒は唾液(だえき)腺に由来し、なかでもヒョウモンダコの毒はきわめて危険である。棘皮(きょくひ)動物のうちフクロウニ、ガンガゼ、オニヒトデなどは、棘の外皮や先端部に毒腺を有する。ラッパウニやシラヒゲウニには、叉棘(さきょく)が特殊化した毒叉棘があり、その部分に毒腺をもつ。
[雨宮昭南]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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