インダストリアル・キャリッジ(読み)いんだすとりあるきゃりっじ(その他表記)industrial carriage

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

インダストリアル・キャリッジ
いんだすとりあるきゃりっじ
industrial carriage

重化学工業が必要とする大量の原燃料資源やその工業製品を、大型の専用船タンカーが長期契約のもとで専属輸送する形態。第二次世界大戦前より、石油企業や製鉄企業なども船舶(インダストリアル・キャリア)を所有して自家輸送していたが、戦後の大量輸送のもとで海運企業の船舶を大いに用船するようになり、戦後世界の不定期船海運の主要な輸送形態となった。

 日本の主要な荷主である重化学工業は、外国から割高な資源を大量かつ遠距離から買い付けねばならず、それには大量の船腹を確保し、輸入価格に高い比率を占める海上運賃低廉となり、かつ長期に安定して輸送される必要がある。それに適応した輸送形態として発達した。おもに、特定荷主に運賃を5~10年据え置きで、特定船舶を引き当てるという長期運送契約により行われている。長期運賃は海運市況に影響されるものの、特定少数の荷主に対して外国船主を含む比較的多数の運航業者が殺到するため、低位に決定される。船舶の大型化競争はそれに拍車をかけた。

 日本の海運企業は、計画造船利子補給に頼って初めて船腹を拡充しえたが、それを割り当てるにあたって国は、海運企業に荷主からの長期積荷保証=運送契約の取り付けを条件とし、低廉輸送を促進した。それによって、荷主は、海運市況に左右されず低運賃の船腹を長期に確保し、大量の資源や製品を安定輸送することができるようになり、他方海運企業は、海運市況に応じて船腹を運航できないものの、一定の利益が保障され、継続して船腹を確実に拡充していけた。日本のインダストリアル・キャリッジは、国の主導のもとで荷主従属的な下請専属輸送となり、海運企業への国家助成はおもに荷主に流れた。便宜置籍船(べんぎちせきせん)はこの形態のなかで発達したが、その船主は長期契約船と市況志向船とを適当に使い分けている。

[篠原陽一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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