日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ウィルソン(Sir Angus Frank Johnstone Wilson)
うぃるそん
Sir Angus Frank Johnstone Wilson
(1913―1991)
イギリスの小説家。伝統的なイギリス風俗小説の現代における代表的な継承者の一人。8月11日サセックスに生まれる。オックスフォード大学で中世史を専攻、卒業後不況のなかを秘書、家庭教師、レストラン支配人などさまざまな職についたあと、1937年、大英博物館図書館に職を得た。第二次世界大戦後、強度の神経症にかかり、その治療の一手段として週末に短編小説を書き始めた。文壇へのデビューは短編集『悪い仲間』(1949)で、非情な風刺で注目された。続く短編集『愛すべきお年寄りたち』(1950)も好評だったが、彼の本領はむしろ舞台を広くとった長編小説にあり、『毒にんじんとその後』(1952)、『アングロサクソンの姿勢』(1956)では知識人たちの社会を描いて、微妙な階級感情や偽善、退廃を、鋭利な観察と柔軟な文体、成熟した倫理感でえぐり出すことに成功する。
その後、女性の強さを描いた『エリオット夫人の中年』(1958)、未来空想小説『動物園の老人たち』(1961)、老年のわびしさを描いた『遅い目覚め』(1964)などを発表したが、『笑いごとじゃない』(1967)では、ある中産階級の一家の半世紀を、戯曲やゲームなど、多様な実験的手法を用いてパノラマ風に描き上げ、さらに神秘的な秘境の人々の力を扱った『まるで魔術のように』(1973)、歴史的な主題をもとにテロリストを取り上げた『世界を炎上させて』(1980)などを発表し、これまでの彼の作風を一段と進展させた。評伝作品には『エミール・ゾラ』(1952)、『チャールズ・ディケンズ』(1970)がある。1991年5月31日没。
[出淵 博]
『永川玲二訳『世界文学全集17 アングロサクソンの姿勢』(1967・集英社)』▽『工藤昭雄・鈴木寧訳『新しい世界の短編7 悪い仲間』(1968・白水社)』▽『芹川和之訳『笑いごとじゃない』(1973・講談社)』▽『グランズデン著、小池滋訳『A・ウィルソン』(1971・研究社)』