改訂新版 世界大百科事典 「ウェヌスの夜歌」の意味・わかりやすい解説
ウェヌスの夜歌 (ウェヌスのやか)
Pervigilium Veneris
愛の女神ウェヌス(ビーナス)をたたえる全93行のラテン詩。《ラテン詞華集》に収められて今日に伝わるが作者は不詳で,成立年代も定かでない。おそらく4世紀ころのものと思われる。シチリア島のウェヌス祭前夜を背景に,〈いまだ愛を知らぬ者は明日愛を迎えいれよ,すでに愛を知りし者は明日も愛に身をゆだねよ〉というリフレーンが繰り返されるなか,春と愛への賛歌が情感豊かに歌いあげられる。愛は宇宙の究極的原理であると同時に,ローマの母神としてもたたえられている。作者自身は〈鶯は歌えど,我は黙す,我が春は何時の日に来たらん〉と憂愁のうちに詩を結んでいる。去り行く異教的古代地中海世界への郷愁にあふれたこの詩は,小品ながらラテン文学史上珠玉の名作ということができる。
執筆者:三浦 尤三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報