オナジャー(英語表記)onager
Persian wild ass
Equus hemionus onager

改訂新版 世界大百科事典 「オナジャー」の意味・わかりやすい解説

オナジャー
onager
Persian wild ass
Equus hemionus onager

オナガーペルシアノロバともいう。ロバに似て,より四肢が長い優美な奇蹄目ウマ科の哺乳類。イラン北東部,アフガニスタン北西部およびトルキスタンの乾燥地帯に分布。かつては独立種とされたが,近年はアジアノロバE.hemionus(英名Asiatic wild ass)の1亜種とみなす者が多い。肩高1.1m前後,体重200~250kg。ロバとウマの中間の体型で,ロバより四肢が長く,耳介がやや短い。尾の長毛は先半部に限られ,うなじから鬐甲(きこう)部に達するたてがみは短く直立する。体の上半部は淡黄褐色。背筋に1黒帯がある。たてがみと尾端の長毛および耳介の先端は黒色。吻(ふん)端,四肢,胴の下半部は白色で上部との境界は鮮明。この白色部は側腹では腰角,後肢の後縁では尾根まで上昇し,腿の褐色部をほとんど孤立させる。乾燥した高原に群生し,日中は年長の雌に率いられて草を食べ歩き,夜は低木や草むらに分散して眠る。

 少なくとも2~3日に1回は水を飲み,このため20km以上移動する。耐久力があり,時速45~48kmで45分以上走り続け,短距離なら時速70kmを出しうる。妊娠期間11ヵ月,1腹1子。新生子は母親に守られて草やぶや岩陰に隠れているが,1ヵ月で群れに加わり草を食べ始める。しかし約1年間乳を飲み続ける。雌は3歳,雄は4歳で性的に成熟寿命は野生下では10~12年であるが,飼育下では24年も生きた例がある。天敵オオカミ聖書の“wild ass”は本種だといわれるほど,昔は分布が広く数が多かったが,今では300~400頭しか残っていない。減少の主因は開発,牧畜などによる水場の不足とされる。パキスタン,インドの国境付近にすむ近似のインドノロバE.h.khur(英名ghorkhar)も400頭くらいしかいないが,シリアトルコの国境近くにすむシリアノロバE.h.hemippus(英名Syrian wild ass)はすでに絶滅したともいわれる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のオナジャーの言及

【ウマ(馬)】より

…ウマの家畜化は新石器時代以降で,日本では縄文前期末のものがもっとも古く,プシバルスキーウマ(モウコウマ)の系統の小型のものとされ,移入されたものであろう。日本固有のものは,旧石器時代のオナジャーonager系統のものが化石として各地から知られているが,家畜化との間には数万年の隔りがある。【亀井 節夫】
〔家畜ウマ〕

【家畜ウマの特徴】
 プシバルスキーウマによく似ていてしばしば同一種とされるが,染色体数が異なるほか,まえがみがあり,尾の長い毛は基部から生じ,胴の腹面は体側と同色などの点で区別できる。…

【ロバ(驢馬)】より

…ただ,当時ロバがどのように利用されていたかは明らかでない。当時この地域では迅速な軍用には,オナジャーonager(ロバとウマの中間的形態をもち,インドより近東にかけて野生状態で生息していた。オナーゲル,オナガー,ペルシアノロバとも呼ぶ)が用いられ,野生獣であるにもかかわらず,捕獲し,調教して用いられており,ロバは乗用馬の普及以前においても,オナジャーに一歩を譲って,庶民の搬用,曳用家畜の位置に甘んじていた。…

【ウマ(馬)】より

…現世のものはウマ科ウマ属しかない。ウマ属には,ウマ亜属(プシバルスキーウマ,家畜のウマおよび絶滅したターパン),アジアノロバ亜属(オナジャー,キャン),グレビーシマウマ亜属(グレビーシマウマ),シマウマ亜属(サバンナシマウマ,ヤマシマウマ,絶滅したクアッガ)と,それらと古く分かれたロバ亜属(アフリカノロバと家畜のロバ)がある。北アメリカ起源であるが,現代では野生種はアジア,アフリカにだけ分布する。…

【ロバ(驢馬)】より

…ただ,当時ロバがどのように利用されていたかは明らかでない。当時この地域では迅速な軍用には,オナジャーonager(ロバとウマの中間的形態をもち,インドより近東にかけて野生状態で生息していた。オナーゲル,オナガー,ペルシアノロバとも呼ぶ)が用いられ,野生獣であるにもかかわらず,捕獲し,調教して用いられており,ロバは乗用馬の普及以前においても,オナジャーに一歩を譲って,庶民の搬用,曳用家畜の位置に甘んじていた。…

※「オナジャー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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