東アフリカ、タンザニアのオルドワイ峡谷にある、世界でもっとも注目された旧石器時代初期遺跡。この峡谷はビクトリア湖とキリマンジャロ火山の間を走る大地溝帯中にあり、現在は半砂漠地となっているが、200万年前は湖沼地帯で、湖水沈殿物と周期的な降灰とが多年にわたり堆積(たいせき)した。その後、湖が干上がり、川の侵食で、場所によっては100メートルにも及ぶ崖(がけ)が形成され、整然と重なった堆積層が露出した。
1910年代より古生物学的ならびに先史学的調査が進められていたが、59年にリーキー夫妻の手で、最深層である第1層から約180万年前の猿人化石が発見された。これがジンジャントロプス(今日ではアウストラロピテクス)・ボイセイであり、矢状隆起(頭骨のてっぺんを前後に走る骨の隆起。そしゃくに使う側頭筋が強大であることを示す特徴)など原始的特徴を多くもつ。引き続いて、ボイセイより進歩的な特徴をもつ化石人骨が、さらに古い層から発見された。それがホモ・ハビリスである。これらの層からは粗製の礫(れき)石器もみつかっており、遺跡名にちなんでオルドワン型石器とよばれる。リーキーは、ハビリスがこれを使用したと考えたが、いずれにせよ、人類最古の道具使用の謎(なぞ)を解く手掛りが得られた。なお、第1層より新しい第2層からは原人とみられる化石人骨が発見されている。そのほか、居住面を含む遺跡も数多く出土しており、これにより初期人類の食・住生活が大いにうかがえる。なお、この渓谷は古生物学的にも化石の宝庫であって、絶滅種のデイノテリウムやシバテリウムなど、重要な化石が出土している。
[香原志勢]
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