古生物(読み)コセイブツ(その他表記)extinct animals and plants

デジタル大辞泉 「古生物」の意味・読み・例文・類語

こ‐せいぶつ【古生物】

地層中の化石から考えられる過去の生物。地質時代に生存していた生物。

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精選版 日本国語大辞典 「古生物」の意味・読み・例文・類語

こ‐せいぶつ【古生物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 化石によって類推される過去の生物。ふつうは地質時代の生物のことで、古い時代のものには、現存しない種類が多いが、新しい時代になると、現在と同じものも多くなる。絶滅したものでは、三葉虫、鱗木、アンモナイトなどがよく知られている。
    1. [初出の実例]「嗹馬、新英倫、仏羅里達、大森の諸介墟より得たる古生物の遺跡に就ては」(出典:大森介墟古物編(1879)〈矢田部良吉訳〉大森近海介類新古の比較)
  3. こせいぶつがく(古生物学)」の略。
    1. [初出の実例]「古生物なんかやっているけど」(出典:他人の顔(1964)〈安部公房〉黒いノート)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「古生物」の意味・わかりやすい解説

古生物
こせいぶつ
extinct animals and plants

地質時代に生存していた生物。その遺骸(いがい)や足跡、巣穴、糞(ふん)などの生活の記録(生痕(せいこん))はそれぞれ体化石body fossil、生痕化石trace fossilとして地層中に残る。古生物には絶滅種と現生種が含まれる。化石種として記載された古生物は約13万種に達するが、その数は既知の現生生物の総種数約175万のわずか7.4%にすぎない。ただし、多くの古生物種は形態種であり、生殖関係を基礎とした生物学的種とは概念的に異なる。種の平均生存期間から推定される地質時代に生存した古生物種の総数は、約10億種と推定されることからみてもわかるように、化石の記録は著しく不完全である。シベリアの永久凍土層から発見された氷浸(づ)けのマンモスや琥珀(こはく)中に封じ込められた昆虫の化石のような特殊な場合を除くと、古生物の遺骸がそのまま化石として残ることはまれである。

 一般には生物の死後、軟部組織は腐食者やバクテリアの働きで急速に腐敗・分解してなくなり、堅いキチン質や鉱物質の骨格や組織のみが体化石となる。しかし、ごくまれには軟部組織が腐敗・分解する前に燐灰(りんかい)石などの鉱物に置換して例外的に保存のよい化石として残ることがある。その好例として、カナダ、ロッキー山脈の中部カンブリア系バージェス頁岩(けつがん)の化石群が挙げられる。しかし、一般には生物遺骸中のDNAやタンパク質などの生体高分子は、化石化の過程で分解して、石油や石炭などの化学的に安定な低分子の有機物(これを化学化石と称する)として地層中に保存される。化学化石のうち、その由来となった古生物が推定できるものを、バイオマーカー(生物指標化合物)biomarkerという。

 古生物学は過去のすべての生命現象を対象とするが、そのためには、遺骸や生痕として残された化石を比較解剖学・比較組織学・生態学などの知識を参考にして詳細に調べ、失われた古生物の体制や生態を復原する必要がある。体制の復原に際しては、現生生物と比較しつつ化石の形態、構造、および物質が本来のものか二次的なものかを識別することが重要である。このような化石の形成過程を調べる研究分野をタフォノミーtaphonomyという。

[棚部一成]

地球生命史

現在の地球の多様な生物はどれもDNAをもち、基本的に同じ遺伝法則に従うことから、すべての生物は共通の祖先から長い時間をかけて進化したと考えられる。生物はかつて植物と動物に分けられてきたが、電子顕微鏡の技術と分子生物学の手法を用いた研究から、生物界は古細菌、真性細菌、真核生物の三つに大別される。前二者ははっきりとした核や細胞内器官をもたないことから原核生物とよばれる。動物、植物、菌類、原生生物アメーバ、有孔虫、放散虫を含む)は真核生物に含められる。

 地球が誕生した46億年前から5億4200万年前までの約40億年間を先カンブリア時代とよび、それ以降の顕生累代と区別される。先カンブリア時代の生物界のほとんどは古細菌や真性細菌などの微生物で特徴づけられる。したがって、先カンブリア時代の生命史の研究では、体化石だけでなく生痕化石や化学化石が重要な研究対象となる。地球上に現存する最古の地層(約38億年前)中には生命起源のものと思われる炭素が含まれていることから、最初の生命は約46億年前から38億年前の間に出現したと考えられる。オーストラリア西部や南アフリカの約35億年前の地層から球状ないしリボン状のかたちをした微小な「化石」が藍(らん)細菌(シアノバクテリアCyanobacteriaすなわち藍藻)や菌類として報告されているが、それらは生命由来ではない可能性が指摘されている。オーストラリア南西部のシャーク湾などの塩分の高い干潟では、弱い光合成能力をもつ藍細菌の遺骸と砂や泥の堆積物が縞状に積み重なってドーム状ないし円柱状の形をしたストロマトライトstromatoliteとばれる石灰質の構造をつくる。最古のストロマトライトの化石は西オーストラリアの約34億年前の地層から報告されているが、その化石記録は先カンブリア時代中ごろ(約27億年~12億年前)の地層に多い。光合成能力に富む真核生物である緑藻類は27億年前ごろに出現し、先カンブリア時代の中ごろから後期にかけて爆発的に繁栄するようになった。

 多細胞動物のものと思われる生物の化石は先カンブリア時代末期の地層から報告されている。とくに中国南部の約5億9000万年前の地層から発見された左右相称動物の胚化石や、世界各地の約5億7000万年前の地層から産した現生のクラゲやウミエラなどの二胚葉性放射相称動物に類似する化石群(最初の産地であるオーストラリア中南部のエディアカラにちなんで、エディアカラ生物群Ediacara biotaとよばれる)は有名である。ただし、これらの化石群の正確な分類学的所属については未確定で、単細胞生物や絶滅した未知の生物群とする異説もある。

 顕生累代初頭のカンブリア紀に入ると、キチン質や鉱物質の硬組織をもつ海成無脊椎(むせきつい)動物のほとんどが一斉に出現し、爆発的に種類を増やしていった。このカンブリア紀初頭の生物界の大変革事件はカンブリア爆発Cambrian explosionとよばれる。顕生累代を通じて生物界は計5回の大量絶滅事変(オルドビス紀末、デボン紀後期、ペルム紀後期、三畳紀末、白亜紀末)により放散後の絶滅と回復を繰り返しながら、時代とともに種の多様性を増加させ、また体の構造(体制)や生態系の構造を複雑化させていった。

 海生動物群を例にとると、その分類学的構成や多様性の変動様式により、三つの進化動物群、すなわちカンブリア紀型動物群、古生代型動物群、および現代型動物群が認められている。このうち、カンブリア紀型動物群は三葉虫類(節足動物)、無関節型腕足動物、古盃(こはい)類、単板類(軟体動物)などを含み、おもに古生代前半(5億4000万年前から4億年前)に繁栄した。古生代型動物群は腕足動物、ウミユリ類(棘皮(きょくひ)動物)、筆石類(半索動物)、四放サンゴ類や床板サンゴ類刺胞動物)、オウムガイ類(軟体動物)、コケムシ類を含み、オルドビス紀以降の古生代に大繁栄を遂げたが、ペルム紀後期(約2億5100万年前)の大量絶滅事変によって大打撃を受けて、中生代以降それらの生態的地位を有孔虫類、二枚貝類や腹足類(軟体動物)、ウニ類(棘皮動物)、甲殻類、硬骨魚類、哺乳類などの現代型動物群に置き換えられた。

 五大絶滅事変のうち白亜紀末(約6550万年前)の事変では、アンモナイト(軟体動物)、海生爬虫(はちゅう)類、陸生の恐竜類などが同時に絶滅したが、哺乳類や恐竜の仲間から分化した鳥類は絶滅をまぬがれて次の新生代に大繁栄を遂げた。最古のヒト科の化石は中央アフリカの新第三紀後期(約600~700万年前)の地層から、またわれわれ現生人類を含むホモ(ヒト)属の最古の化石は東アフリカの約240万~180万年前(第四紀前期)の地層からみつかっている。

 一方、植物が陸上に進出したのは約4億7000万年前(オルドビス紀中期)といわれている。デボン紀初期には、真の繊管束ではない通道組織をもった植物(前繊管束植物)や繊管束植物が繁栄した。デボン紀後半になると胞子で繁殖していた植物の仲間に加えて種子で繁殖するものや茎に形成層をもつものが現れ、石炭紀に入るとカラミテスやリンボクなどの高さ20メートルを超える巨大な木質植物が大森林をつくり、良質な石炭の原料となった。デボン紀から石炭紀前半にかけては、大気の二酸化炭素の濃度が現在よりかなり高く、地球は温暖な時期であったと考えられている。しかし植物が増えてくると、光合成により二酸化炭素を消費し、土壌の発達がさらに二酸化炭素を吸収することにより、石炭紀の後半には大気中の二酸化炭素が急減し、地球は寒冷化して氷河時代となった。その結果、これまで湿地を中心に繁栄していたシダ植物は衰えて、そのかわりにシダ植物より繁殖能力に優れた種子植物(たとえばゴンドワナ大陸に繁栄したグロッソプテリス)が分布を広げた。石炭紀後期には自分で運動できる精子をもったソテツ類やイチョウ類が出現した。中生代の三畳紀に入ると裸子植物の祖先群がほとんどすべて登場し、またジュラ紀には針葉樹が、前期白亜紀には被子植物が、それぞれ出現した。

[棚部一成]

系統分類

古生物は現生生物と同様に、体制の特徴に基づいて、門・綱・科・属・種の順で分類される。古生物学者の唱える系統分類体系は、硬組織の形態や各分類群の地史的分布に立脚するため、軟体部の解剖学的特徴・発生や遺伝情報を重視する現生生物学者の見解とはかならずしも一致しない。したがって古生物の分類では、硬組織のみならず保存のよい軟部化石が重要となる。また個体変異・発生段階による形態の違い、収斂(しゅうれん)や平行進化現象にも注意する必要がある。古生物のなかには、現世に近縁種がないため分類上の位置が未確定な古盃類(カンブリア紀)のような例もある。生痕化石には巣穴、足跡、糞(ふん)、捕食痕などがあるが、それらをつくった古生物の遺骸そのもの、すなわち体化石とともに産することはまれである。そのため生痕化石の分類上の位置は不明なものが多いが、形態学的特徴によって属のレベルで学名が与えられている。

[棚部一成]

環境と進化

生命の誕生以来、生物は地球環境と互いに深いつながりをもちながら進化してきた。たとえば、先カンブリア時代中ごろになると、それまでにいた藍細菌に加えて光合成能力の高い真核生物の緑藻類が繁栄を遂げた。その活動によって水と二酸化炭素から有機物が合成され、それとともに大量の酸素が海水中に放出されて海洋や大気の酸素濃度がしだいに増加していった。古生代のシルル紀までには大気中の酸素が十分に増加してオゾン層が形成された結果、オゾン層による紫外線の遮断が実現し、生物が陸上に進出することを可能にした。進化を環境との相互作用(適応)としてとらえるためには、古生物各種の古生態学的情報はもちろんのこと、化石を含む地層の地球化学的分析や堆積(たいせき)相の解析により、有機的・無機的環境要因を詳しく明らかにする必要がある。また、古生態学的研究では、化石の産状や保存状態を詳しく調べて、生きていた場所で遺骸が堆積してできた現地性化石であるか、それとも遺骸が別の場所に運搬されてできた異地性化石であるかを明らかにすることが重要である。古生物の行動・生活様式・食性などを推定するには、生痕化石の研究や近縁の現生種との機能形態の比較が大きな手掛りとなる。

 現生生物を対象とした進化生物学では、おもに短期間での個体群や種の遺伝子頻度の変化(小進化)を実験と理論の両面から研究するが、分子生物学の進展によって属以上の分類群(高次分類群)間の系統関係や分子レベルでの進化を調べることができるようになった。分子生物学的手法は、地質時代から現在まで生き延びた種やマンモスなど特殊な条件で保存された古生物を除き、大部分の絶滅種には今のところ適用できない。そのため、古生物学では主として長い時間軸での高次分類群の進化(大進化)、系統関係、多様性変動と大量絶滅事変との関係などを扱う。種の形成は、生物学者と古生物学者の両方が興味をもつ問題である。これまでに、新しい種は祖先種の大きな個体群からゆっくり連続的に分化しながら形成したとする説(系列漸進説)と、周辺の小個体群から短期間に急激な形態変化を伴いながら形成されたとする説(断続平衡説)が提唱されているが、化石記録をみると両方の場合があり、どちらが正しいかは一概にいえない。

 大進化を決める要因の一つである種の生存期間は、哺乳(ほにゅう)類や三葉虫、アンモナイトなどでは平均200万~300万年と短く、逆に海生二枚貝や有孔虫では1000万年と長い。絶滅率は、種の生存期間の短い類ほど高い傾向にある。種や属の生存期間が長く、原始的な体制を長期間維持してきた現生生物は、遺存種、または「生きた化石」とよばれる。有明海(ありあけかい)に生息するシャミセンガイLingula(カンブリア紀以降)やイチョウGinkgo(トリアス紀以降)がその好例である。逆に形態変化がすみやかで生存期間の短い三葉虫、アンモナイト、フズリナなどは標準化石として地層の区分や対比に利用されている。

[棚部一成]

『池谷仙之・山口寿之著『進化古生物学入門――甲殻類の進化を追う』(1993・東京大学出版会)』『間島隆一・池谷仙之著『古生物学入門』(1996・朝倉書店)』『ナイルズ・エルドリッジ著、新妻昭夫訳『ウルトラ・ダーウィニストたちへ――古生物学者から見た進化論』(1998・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『速水格・森啓編『古生物の科学1 古生物の総説・分類』(1998・朝倉書店)』『棚部一成・森啓編『古生物の科学2 古生物の形態と解析』(1999・朝倉書店)』『棚部一成・池谷仙之編『古生物の科学3 古生物の生活史』(2001・朝倉書店)』『C・パターソン著、馬渡峻輔・上原真澄・磯野直秀訳『現代進化学入門』(2001・岩波書店)』『リチャード・フォーティ著、渡辺政隆訳『生命40億年全史』(2003・草思社)』『アンドルー・H・ノール著、斉藤隆央訳『生命最初の30億年――地球に刻まれた進化の足跡』(2005・紀伊国屋書店)』『速水格著『古生物学』(2009・東京大学出版会)』『大路樹生著『フィールド古生物学――進化の足跡を化石から読み解く』(2009・東京大学出版会)』『日本古生物学会編『古生物学事典 第2版』(2010・朝倉書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「古生物」の意味・わかりやすい解説

古生物 (こせいぶつ)
ancient life

過去の生物。この場合の過去とは地質学的意味での過去であり,その生物が,現在は化石となっている程度の昔である。日本の古生物学の基礎を築いた横山又次郎はその著《古生物学綱要》(1920)において,前世界という過去の地質時代に地球上に生息した生物,というように表現している。いずれにせよ,化石が具体的なものとして存在しているのに対して,古生物の方はすべての種類が化石として残存しているわけでもなく,また現生生物と同じ生活体として扱うには探究不可能な点が多いので,抽象的な一般的概念となっている。古生物はさらに区分して,古動物,古植物,古無脊椎動物,古脊椎動物などといわれることが多い。古生物を対象とするのが古生物学であるが,これに対して現在の生物を扱うのを現生生物学として区別することがある。なお,動(植)物化石,化石動(植)物という表現が用いられることがあるが,前者は化石そのものを指し,後者は古動(植)物を意味している。
化石
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の古生物の言及

【化石】より

…地質時代の生物(古生物)の遺体や生活の痕跡が地層中に埋没・保存されたもの。文字どおりの意味では〈石に化したもの〉であるが,化石は必ずしも石化していない。…

※「古生物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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