カマキリ(読み)かまきり(英語表記)fourspine sculpin

改訂新版 世界大百科事典 「カマキリ」の意味・わかりやすい解説

カマキリ (蟷(螳)螂)
mantis
praying mantis

カマキリ目Mantodeaに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。カマキリの仲間は,夏の終りころから成虫が現れ,草間に多く見られる。肉食性。秋になると交尾し,やがて草の茎や小枝,または人家の外壁などに卵囊を産みつける。卵囊内の卵はそのまま越冬し,翌年5月ころに孵化(ふか)し,幼虫となる。幼虫時から捕食性が強く,一生の間に多量の小昆虫を捕食し,いわゆる益虫としての価値が高い。

 日本のカマキリ類はカマキリ科Mantidaeとヒメカマキリ科Hymenopodidaeの2科よりなる。いずれも前脚の腿節より先の部分が変形してできた鎌を備える。中型のものから大型のものまで種々の大きさがあり,体は全体に平たく細長く,三角形のよく動く頭部と細長くのびた前胸,前脚の鎌などに特徴がある。前胸背板は,ふつう細長いが,幅広くなることもある。翅はふつうよく発達しているが,なかにはヒナカマキリのように退化してしまっているものもある。前脚の腿節には鋭いとげの列があり,これに続く先端のやはり鋭くとがった脛節(けいせつ)とともに,いわゆる〈鎌〉を形成し,小昆虫の捕獲に使う。中・後脚は細長く,歩行肢となっている。これらの脚は,ヒメカマキリの仲間では飾りの葉片がついていることもある。尾角や産卵管は短く,雄の外部生殖器は不相称形で,ゴキブリ類のものによく似ている。

大部分が草間や樹上で生活するが,ヒナカマキリのように地上の落葉の間などで生活している特異なものもいる。肉食性が強く,とくに動いている小昆虫をとらえてよく食べる。カエルやトカゲをとらえたという記録もある。捕食をするとき,眼で餌物の動きを追う動眼視を行う。したがって,複眼はよく発達していて,さらに頭部がかなり自由に動くことにより,その視野はたいへん広い。2本の鎌を持ち上げて,祈りをささげているような姿勢をしていることがある。このしぐさ,姿などから,各地で〈おがみ虫〉〈預言者〉など種々の呼名があり,英名や学名のMantisも〈預言者〉の意のギリシア語からきている。これは見つけた虫を今にもとらえようとしている捕獲のための姿勢であり,射程距離に入るや,鎌をのばし,打ち振り,小虫をとらえるのである。またおどすと頭胸部と腹先をのけぞらせ,鎌を左右に開いて,威嚇姿勢をとり,おどし返す。交尾のときは,雌のカマキリの肉食性が強いあまり,相手の雄はかなり用心して雌に近づき交尾を達成する。交尾中に雄が頭部を食われてしまうということもときに起こるが,それでも交尾は行われる。雌は交尾後まもなく,腹端から泡を出して木の枝などにつけ,卵を産みつけ,属や種に特有な多種多様な形の卵囊をつくる。この卵囊は古くはオオジガフグリと呼ばれた。この卵囊は鳥に食べられることもなく,そのまま越冬し,翌年5~6月に孵化するが,孵化時に見られた多数の幼虫は,やがて共食いや鳥などに食われ減少してしまう。しかし,ある程度成長すると,肉食性を発揮する。不完全変態で,1齢幼虫から成虫と似た形態をしている。

カマキリ類は,その形態的特徴や卵囊をつくることなどから,ゴキブリ類に近縁と考えられる。世界から約1800種が知られるが,日本には約10種を産する。ふつうによく見られる種類は,オオカマキリTenodera aridifoliaやカマキリT.angustipennisで,前者はやや大型で体長7~9.5cm,卵囊は球状,後者は体長7~8cm,後翅が大部分透明であることと卵囊が細長いことにより前者と区別される。ハラビロカマキリHierodula patelliferaは体長5~7cm,前胸が太めで,つやがある。コカマキリStatilia maculataは体長4.8~6.5cm,黒褐色のカマキリであり,ヒナカマキリAmantis nawaiは好地性で体長2cm内外の小型の種類である。
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カマキリにいぼをかじらせると治るという俗信は日本各地で昔から行われていたようで,イボムシリイボジリイボムシなどの異名が残っている。また矢じりが深く入って抜きにくいときに,この虫を陰干しにしたものの粉末(権法散という)を傷口に塗ると矢じりが自然に出てくるという。南フランスのプロバンス地方の農民の間では,カマキリの卵囊でしもやけをこするとなおると信じられ,またそれを身につけているだけで歯痛を免れるという迷信があったという。イギリスには,子どもが道に迷ったとき,カマキリに道をたずねると,虫が前肢をのばして方向を指示してくれるという言い伝えがあった。

 熱帯・亜熱帯地方には枯葉に擬態して獲物を待伏せする種類(カレハカマキリ)や,ランなどの花に擬態して獲物をおびきよせる珍奇な種類(ハナビラカマキリ)がいる。後者は〈魔の花〉などと呼ばれているが,あまりに擬態が巧みなので,原住民の中には花が昆虫になると信じている者がいるという。カマキリは攻撃的,好戦的で自分よりも大きな相手にも立ち向かうので,たいして力もない者が,強大なものに無謀にも刃向かうことを〈蟷螂(とうろう)の斧〉という。なお,カマキリの腹を裂くと出てくる黒い細いものはハリガネムシの幼虫である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カマキリ」の意味・わかりやすい解説

カマキリ(昆虫)
かまきり / 蟷螂
螳螂
mantises
praying mantids

昆虫綱カマキリ目Mantodeaの昆虫の総称、またはそのうちの1種。カマキリ目の昆虫は、三角形をしたよく動く頭部、前後に伸長した前胸とそれに続く細長い体、そして鎌(かま)状の前肢(ぜんし)という特徴ある体形をしており、体形的によくまとまった昆虫群である。直翅(ちょくし)目やナナフシ目などの昆虫群に近縁の直翅系昆虫の一群で、形態的にはゴキブリ目にもっとも近く、分類学的にも長い間、ゴキブリとカマキリは同一の目のなかに扱われていたほどである。おそらくカマキリ目はゴキブリ目から直接に進化してきたものであろうと考えられる。

[山崎柄根]

形態

頭部は逆三角形で、左右両角には大きい複眼を備え、視野を広くしている。口はかむ型である。前胸背は、原始的なものでは短いが、普通は長く伸長し、前肢もそれに伴って長くなる。前肢は太く頑丈な腿節(たいせつ)と、鋭い先端をもつ脛節(けいせつ)とで鎌状となっている。この鎌で小昆虫を捕食する。カマキリの名はこの鎌の部分とその行動とによっている。この前肢は歩行には用いられないので、とくに捕獲肢とよばれる。中肢と後肢は歩行肢で、例外なく細く長い。ときにはその腿節などに飾りの小片がつくことがある。はねは一般によく発達するが、退化してしまうものもある。腹部は平たいが、食物を多くとったものや産卵直前の雌個体などはぼってりと膨らんでいる。腹端には多節の尾角があり、産卵管は目だたない。生殖器はゴキブリ目のそれによく似ている。

[山崎柄根]

生態

一般に草上や樹上で生活するが、はねの退化する種では地上の落葉上などで生活する。肉食性の昆虫群で、とくに動いている餌(えさ)しか食べない。左右の鎌をあわせて祈っているような状態は、身近の動く小昆虫を察知し、捕獲するために構えたところである。驚かしたりすると、この鎌を左右に広げて威嚇の姿態を示す。このとき頭胸部や腹部も持ち上げて効果を強める。強い肉食性のため、交尾の際の異性も餌食(えじき)にすることがあり、交尾行動中の雄が雌に食われてしまうことがある。卵は腹端から出した泡状の塊の中に産み付け、これは産卵後まもなく固くなって卵嚢(らんのう)となる。卵嚢は木の枝や石その他に付着させる。日本の種類はこの卵嚢で越冬し、春に孵化(ふか)する。不完全変態で、1齢幼虫から成虫とほぼ同じ体のつくりをしている。

[山崎柄根]

種類

世界でおよそ1800種が知られており、日本には10種以上が分布する。緑色または褐色で大形のカマキリTenodera angustipennisと、これよりやや大きく、後翅に紫褐色部のあるオオカマキリT. aridifoliaが代表的。両種とも本州以南にみられる。ほかに、ウスバカマキリMantis religiosa、コカマキリStatilia maculata、ハラビロカマキリHierodula patelliferaなどがある。外国には金属光沢をもつものや、ランの花や枯れ葉に形を似せるものなど、風変わりのものが多い。

 カマキリの方言は多く、オガメ、オガミムシ、ネギサマなど、捕獲の準備姿勢を祈祷(きとう)姿勢と見立てて、その連想に由来するものが多い。英名の由来も同様である。

[山崎柄根]



カマキリ(淡水魚)
かまきり / 鎌切
蟷螂
fourspine sculpin
[学] Cottus kazika

硬骨魚綱スズキ目カジカ科に属する淡水魚。青森県以南の太平洋側と日本海側(本州)、四国、九州の河川に分布する。日本固有種。別名アユカケ。和名カマキリと別名アユカケの名の由来は、前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)にある棘(とげ)で、昆虫のカマキリが虫をとらえるように、好物のアユなどの小魚を捕まえることに起因する。

 体はハゼ型で、頭は丸く、その背面と目の下に隆起線がないこと、前鰓蓋骨に4本の棘があり、最上棘(きょく)は上方へ強く曲がること、口蓋骨に歯があることなどで他の淡水域にすむカジカ類と区別する。体側に4本の暗色の横帯がある。河川の中流域の瀬の礫底(れきてい)を好む。産卵期は12月から翌年3月で、このころ腹を上にして川を下るが、降るあられに腹を打たせるという情景からアラレガコともよばれる。河口から沿岸の岩礁域で産卵する。卵は小さく、直径は1.5~1.7ミリメートル。孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)は沿岸域で1か月ほど浮遊生活をして、全長14ミリメートルぐらいになって川を上る。全長30センチメートルぐらいになる。近年、堰(せき)などによって遡上(そじょう)が妨げられ、全国的に減少し、熊本県では絶滅した。福井県の一部の生息域では国の天然記念物に指定されている。ゴリ料理と称して賞味する。

[尼岡邦夫]

 カジカとよく似ているため混称されることもある。幼魚のとき一度海に下る。水の澄んだ川の浅いところにいるが、とくに福井県の九頭竜(くずりゅう)川に多くすむといわれている。白焼きにしたカマキリを長時間番茶で煮て、砂糖としょうゆで味つけしたものは骨までやわらかく、福井県の名物料理である。また、カマキリはガクブツともいわれ、みそ汁に入れたものをがくぶつ汁という。

[河野友美・大滝 緑]

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百科事典マイペディア 「カマキリ」の意味・わかりやすい解説

カマキリ(魚類)【カマキリ】

カジカ科の魚。地方名アラレガコ,アユカケなど。全長35cmに達する。鰓にとげがある。日本特産で山形県以南に分布。河川の中流域の礫底(れきてい)にすむ。産卵期は春先で,そのころ下流におりる。孵化(ふか)した稚魚はいったん海に下り,少し成長してから再び川をさかのぼる。美味で福井県九頭竜(くずりゅう)川の〈アラレガコ料理〉は名物。地域を限って天然記念物に指定されている。絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目カジカ

カマキリ(昆虫)【カマキリ】

カマキリ目の昆虫の総称。体長20mm弱の小型種から100mm以上の大型種まで多くの種類があるが,熱帯地方に多い。翅のある種が多く,緑色または茶色。前肢が鎌状に変化していて他の昆虫を捕食する。貪食(どんしょく)でカエルやトカゲまで食べ,交尾中の雌が雄を食べることもある。卵は麩(ふ)に似た卵莢(らんきょう)に包まれて越冬。卵莢の形は種類によって異なる。日本には11種。オオカマキリが各地に多く,北海道南部にはこれ1種だけ。近似種にチョウセンカマキリがあり,この種のことを単にカマキリということもある。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「カマキリ」の解説

カマキリ
学名:Tenodera angustipennis

種名 / カマキリ
別名 / チョウセンカマキリ
解説 / 明るい草原から林縁まで、広く見られます。オオカマキリにくらべて体が細く、後ろばねのつけ根は、うすい色をしています。
目名科名 / カマキリ目|カマキリ科
体の大きさ / 65~90mm
分布 / 本州、四国、九州、南西諸島
成虫出現期 / 8~11月

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カマキリ」の意味・わかりやすい解説

カマキリ
Cottus kazika

カサゴ目カジカ科。別名アユカケ。全長 30cmになる。体はやや長く,やや縦扁する。成魚では胸鰭の各軟条の先端が分岐する。体色は灰褐色で,体側に4本の幅広い黒色横帯がある。夏は中流域にすみ,秋から冬にかけて下流へ下り,河口や海で産卵する。仔魚は再び川を上る。日本特産種。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「カマキリ」の解説

カマキリ

 カジカ目の淡水魚.

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世界大百科事典(旧版)内のカマキリの言及

【カジカ(鰍)】より

…漁法としては下流に網を置き,上流の石を棒でもんでカジカを脅かし,下流の網に追い込む〈カジカ押し〉が有名である。 カマキリC.kazikaは山形県以南の河川に分布する。淡水産のカジカとしてはもっとも大型になり,全長35cmに達する。…

【かまいたち(鎌鼬)】より

…しかし,旋風とイタチとがなぜ結びついたかは不明である。新潟県西蒲原郡の弥彦山と国上山の間の黒坂という所で転倒すると必ずこの害にあうといい,一方同県小千谷市片貝町のカマキリ坂には昔大カマキリがいて,この坂で転んだ者は鎌傷に似た傷を負わされて苦しんだと伝えている。カマキリを方言でカマイタチとよぶ例もあるから,両者に何らかの関係があるものと思われる。…

※「カマキリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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