改訂新版 世界大百科事典 「矢じり」の意味・わかりやすい解説
矢じり/鏃 (やじり)
石,骨,木,竹,青銅,鉄などでつくり,矢柄(やがら)の一端に着装する。鏃(ぞく)ともいう。鏃は,鏃身の形により,非常に細かく分類することもできるが,茎(なかご)の有無によって,大きく二つに分けることができる。鏃を矢柄に取り付けるにあたり,茎のある有茎鏃の場合は,茎を矢柄に挿し込み,茎のない無茎鏃の場合は,矢柄に切込みを入れて鏃を挟み,糸や細い樹皮などで巻いたり,アスファルトで固定したりした。ただ,古くは必ずしも鏃をつけていたわけではなく,ドイツの旧石器時代末期やエジプトの古・中王国時代にみられるような木製の矢がある。弓矢は狩猟や戦闘に際し,相手から離れていても攻撃できるという特色をもつが,その起源は明確にしがたい。ヨーロッパでは,後期旧石器時代のソリュートレ文化に,フリント製の打製石鏃があり,また中国では,殷代の最古の青銅器に鏃が含まれている。
日本では,縄文時代の打製石鏃に始まり,弥生時代には,銅鏃,鉄鏃が現れる。古墳時代になると,儀仗用の石製鏃も何例かあるが,鉄鏃が主流となり,5世紀中葉以降には,すべて鉄鏃で占められるようになる。このように,技術が進むにつれ,武器として,より効果的な素材が用いられるようになる。これに伴って,鏃の形も変化する。弥生時代の銅鏃には,小型品が多いが,古墳時代になると,その形も種類が増し,大型品もつくられる。しかし,鉄鏃の普及により,武器としての役割は,しだいに減少していった。一方,鉄鏃についても,弥生時代では,小型品が主流で,その数も少ないが,古墳時代になると,鋳造による銅鏃と異なり,鉄の展性を生かしていることもあって,バラエティに富むようになる。さらに,古墳時代の鉄鏃は,防御具である甲冑(かつちゆう)と密接に関連して変遷している。初めは,銅鏃をまねた形や扁平なものが多いが,4世紀末ごろ,甲冑が普及し始めると,鉄鏃の形が多様化し,しだいに大型化する。5世紀中葉,鋲で留めた短甲や鉄の小札(こざね)を綴った挂甲(けいこう)が出現する頃からは,茎が長く,鏃身が小さく鋭い長頸鏃が鉄鏃の主流となり,以後,正倉院に残る奈良時代の鉄鏃へと続く。攻撃用武器としては,傷口を広げるよりも,傷口の深さ,貫徹力を念頭においた鉄鏃へと変化している。なお,特殊なものとして,古墳時代には,鹿角製や木製の鳴鏑(なりかぶら)の例があり,奈良県桜井市メスリ山古墳では,鏃身,矢柄,矢羽までを鉄でつくった儀仗用の矢が出土している。また,埴輪(はにわ)では,靫(ゆき)形埴輪から鏃身の形をうかがうことができる。
→石鏃 →弓矢
執筆者:小林 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報