サスライアリ(その他表記)driver ant

翻訳|driver ant

改訂新版 世界大百科事典 「サスライアリ」の意味・わかりやすい解説

サスライアリ
driver ant

膜翅目アリ科サスライアリ亜科Dorylinaeに属するアリの総称で,サスライアリ属DorylusヒメサスライアリAenictusの2属からなり,アフリカからアジアの熱帯地方にかけて分布し,日本には西表島に小型のヒメサスライアリの1種が生息している。働きアリは複眼を欠くか,痕跡的な1個眼しかなく,サスライアリ属のものは多型で大型の兵アリから小型の働きアリまで連続した変異が見られるが,いずれも先端のよくとがった大あごをもっている。雌(女王)アリおよび雄アリは大型で,雌アリは働きアリ同様に盲目であり,生まれながら無翅。一般に幼虫の成育期には隊列をつくって行進し,獲物を狩る習性がある。中央アフリカ産のサスライアリ属の中には一群の個体数が100万を超す種類があり,活動期には昆虫のような節足動物のほか爬虫類,鳥類,小型哺乳類も狩りの対象となるが,つながれたり,病気で動けないような場合にはウシやウマのような大型の動物も食い殺す。幼虫が育ち終わり雌アリが産卵期に入ると静止期となって倒木や石の下のすき間を一時的な巣として定住し,狩りはときどき行われるがずっと小規模のものとなる。

 南北アメリカ熱帯中心に温帯地方にまで広く分布するグンタイアリarmy antは,サスライアリとよく似た形態と習性をもっている。グンタイアリ亜科Ecitoninaeはグンタイアリ属Ecitonなど5属に分類される。大群になる種類では個体数が数十万となるものがあり,ときには食物を求めて人家内に侵入することもある。大あごは鋭くとがっていてニワトリがかみ殺されることがあり,また人にかみついたとき無理に引き離すと皮膚が切れて出血する場合がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サスライアリ」の意味・わかりやすい解説

サスライアリ
さすらいあり / 流離蟻
driver ant

昆虫綱膜翅(まくし)目アリ科サスライアリ属Dorylusの昆虫。アフリカやインドなどの熱帯地方に生息する。働きアリの数が約2000万匹に達する巨大なコロニーをつくるものもある。定まった巣をつくらず、働きアリ自身が覆いとなって、内部に女王や幼虫などを保護する。食物を求め、隊列を組んで広大な地域を移動する。このアリの通る所は、無脊椎(むせきつい)動物だけでなく、ときには小形の脊椎動物でさえも襲われて食い尽くされてしまう。なお、同様の習性をもつアメリカ大陸のグンタイアリは、分類学上は別の亜科であるグンタイアリ亜科に入れられている。

[山内克典]

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世界大百科事典(旧版)内のサスライアリの言及

【アリ(蟻)】より

…アリが植物体をすみかとし,両者の間に特別な関係を生じたものをアリ植物といい,熱帯地方に見られる。 一つのコロニーに含まれている働きアリの数は日本産のクビレハリアリで約20匹,クロヤマアリでは数千匹,エゾアカヤマアリ(イラスト)で数万匹程度であるが,アフリカ産のサスライアリや中南米産のグンタイアリ(イラスト)には数百万匹に及ぶものがある。繁栄しているコロニーからは毎年羽アリ(有翅の雄アリや雌アリ)が生まれ,種類によってほぼ定まった時期に結婚飛行を行い交尾する。…

【社会性昆虫】より

…つまりコロニーは形式上家族または親族集団である。しかし集団サイズはきわめて大きくなることがあり,ミツバチで2万~5万,アフリカのサスライアリでは200万~2200万に達する。ただしその大半を占めるワーカーは,原則として不妊性なので,女王の体から分離して働く器官の役割を果たしているにすぎない。…

※「サスライアリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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