シュウ酸鉄(読み)シュウサンテツ

化学辞典 第2版 「シュウ酸鉄」の解説

シュウ酸鉄
シュウサンテツ
iron oxalate, ferrous, ferric oxalate

Feの塩と,Feの塩(中性塩,酸性塩,塩基性塩)とが知られている.【】Fe C2O4(143.86).天然に鉱石としてフンボルチン(humboldtine)FeC2O4・2H2Oを産出する.Feの塩の水溶液にシュウ酸またはその塩を加えるか,鉄をシュウ酸水溶液に溶かして濃縮すると二水和物が得られる.淡黄色の結晶単斜晶系斜方晶系の2形があり,いずれも図のようにFeのまわりはO原子による正八面体六配位で,鎖状につながっている.Fe-O約2.07 Å(H2O),2.14 Å(C2O4).密度2.28 g cm-3

空気中でも比較的安定である.真空中で加熱すると,142 ℃ で無水物となり,190 ℃ でCO,CO2を発生して,あとに可燃性のFeOが残る.空気中では約160 ℃ で分解する.水,シュウ酸水溶液に難溶,HClに微溶,シュウ酸のアルカリ塩水溶液に可溶.写真の現像,ガラスの着色剤(サングラス,鉄道車両の遮光ガラスなど),プラスチックペイント顔料などに用いられる.[CAS 516-03-0]【】Fe2(C2O4)3(375.75).25 ℃ で約65% の硝酸中で,硝酸鉄(Ⅲ)Fe(NO3)3・9H2Oとシュウ酸とを反応させ,濾液を硫酸上で蒸発濃縮すると五水和物が得られる.また,Fe(OH)3とシュウ酸水溶液との反応からは四水和物が得られる.前者は黄色,後者は黄緑色の結晶.水に可溶.水溶液はKSCNでは着色しないが,K4[Fe(CN)6]では青色沈殿を生じ,NaOHではFe(OH)3を沈殿する.強い光で分解して,Fe C2O4とCO2を生じる.

   2[Fe(C2O4)3]3- → 2Fe C2O4 + 3C2O42- + 2CO2   

過剰シュウ酸カリウムを含む水溶液に溶け,化学光量計に用いられるトリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(C2O4)3]を生じる.触媒写真印画紙などに用いられるほか,トリス(オキサラト)鉄錯体製造原料となる.[CAS 2944-66-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「シュウ酸鉄」の意味・わかりやすい解説

シュウ(蓚)酸鉄 (しゅうさんてつ)
iron oxalate

酸化数ⅡおよびⅢの鉄のシュウ酸塩が知られている。

化学式FeC2O4・2H2O。天然にフンボルチンとして産する。鉄をシュウ酸に溶かすか,鉄(Ⅱ)塩水溶液にシュウ酸あるいはシュウ酸アルカリ水溶液を加えると得られる。淡黄色結晶性粉末。斜方晶系。比重2.28。空気中で加熱すると150~160℃で分解し,無水和物は得られない。水に難溶。希無機酸およびシュウ酸アルカリ水溶液に可溶。サングラスの着色剤(緑褐色),顔料等に用いられる。

化学式Fe2(C2O43・5H2O。硝酸鉄(Ⅲ)とシュウ酸を65%硝酸に溶かし,濃硫酸上で蒸発させると得られる。黄色結晶性粉末。光により分解して緑色となる。水に溶けて黄色溶液となり,徐々に分解してシュウ酸鉄(Ⅱ)となる。シュウ酸カリウム水溶液に溶けてトリスオキサラト鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(C2O43]となるが,これは波長254~390nmにおける化学光量計として用いられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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