シュウ酸(読み)しゅうさん(英語表記)oxalic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュウ酸」の意味・わかりやすい解説

シュウ酸
しゅうさん
oxalic acid

二つのカルボキシ基カルボキシル基)-COOHが炭素原子どうし直接結合した構造をもつジカルボン酸で、ジカルボン酸としてはもっとも簡単な化合物。カタバミスイバをはじめ、広く植物界にカリウム塩またはカルシウム塩の形で分布している。英語名はカタバミの学名Oxalisが語源である。日本語名のシュウ(蓚)酸はスイバの漢名による。

 木片をアルカリで処理後、抽出して得ることができる。また、水酸化ナトリウムと一酸化炭素を反応させるとギ酸ナトリウムが得られるので、この化合物を熱してシュウ酸ナトリウムに変換し、さらにカルシウム塩に変えてから、硫酸を反応させると得られる。カルボン酸としては非常に酸性が強く、第一のカルボキシ基の解離は、酢酸に比べて3000倍もおこりやすい。

 結晶水をもたない無水のシュウ酸の結晶は吸湿性で、放置すると二水和物になる。二水和物は101.5℃で融解するが、融点付近の温度で結晶水を失って、無水のシュウ酸の結晶となる。冷水やエタノールエチルアルコール)にかなり溶解し、熱水には非常によく溶けるが、エーテルなどの有機溶媒には比較的溶けにくい。180~190℃に加熱すると分解して一酸化炭素、二酸化炭素、ギ酸を生ずる。染料の原料、麦藁(むぎわら)、木綿などの漂白剤として用いられるほか、二水和物の結晶が純粋に得られることを利用し、酸アルカリ滴定および酸化還元滴定標準物質に使われる。有毒なので、取扱いには注意を要する。

[廣田 穰・末沢裕子]

食品

シュウ酸は塩類の形で非常に広く植物類の中に含まれている。植物によりシュウ酸の含量の多少があり、とくに多いものとしては、野菜のなかではタケノコホウレンソウルバーブなどがあげられる。これらは多いときには約1%程度の含量となることもある。野菜中に含まれているシュウ酸は、あくの成分として食味にマイナスの味を与えることもあるが、トマトなどのように酸味の一つとして味の成分にプラスになるものもある。シュウ酸は水に溶けやすいので、ゆでるなどの操作で半分くらいのシュウ酸はゆで汁に溶け出る。

 栄養的には、シュウ酸はカルシウムや鉄と結合し、カルシウムや鉄の吸収に対し阻害的に働くともみられるが、通常は、それほど吸収を妨害しない。多量のシュウ酸は結石(腎臓(じんぞう))などの原因となるが、普通食べられる量ではまったく影響のないことがわかっている。

河野友美・山口米子]


シュウ酸(データノート)
しゅうさんでーたのーと

シュウ酸
  COOH
  |
  COOH
 分子式  C2H2O4
 分子量  90.0
 融点   189.5℃(分解)
 沸点   ―
 比重   1.90(測定温度25℃)
 溶解度  3.5g/100g(水0℃)
      61.1g/100g(水60℃)
 解離定数 第一解離K1=5.36×10-2
      第二解離K2=5.3×10-5

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改訂新版 世界大百科事典 「シュウ酸」の意味・わかりやすい解説

シュウ(蓚)酸 (しゅうさん)
oxalic acid


分子内に2個のカルボキシル基をもつジカルボン酸のうちの最も簡単なもの。生体内でグリオキシル酸の酸化によってできる代謝副産物である(グリオキシル酸回路)。多くの植物中にカリウム塩やカルシウム塩などの形で存在し,遊離の酸としてもカタバミ(Oxalis属で,ここからoxalic acidの名がきている),スイバ,バショウなどに含まれることから,フランスの化学者A.L.ラボアジエによって命名された。日本語名のシュウ(蓚)酸はスイバの漢名“蓚”による。比重1.90,融点189.5℃。吸湿性の無色結晶で,空気中に放置すると2分子の結晶水をもつ2水和物(融点99.8~100.7℃)になる。水やエチルアルコールに溶けやすいが,エーテルなどの有機溶媒には溶けにくい。二塩基酸であることから水中では2段階の解離を行う(25℃における酸解離指数pK1=1.271,pK2=4.266)。190℃付近で分解し,ギ酸,一酸化炭素,二酸化炭素を生じる。種々の金属と安定な塩をつくる。ある種の菌類,二枚貝の外套膜,人間の尿中にも少量含まれて,尿中のシュウ酸量が増加する症状はシュウ酸塩尿と呼ばれている。シュウ酸は多量に摂取すると,人体からカルシウムを奪い不溶性のシュウ酸カルシウムCaC2O4となり,尿路結石の原因ともなる。酸化の最終産物であるので,特殊な微生物のほかは代謝できない。

 おがくずのアルカリ処理,砂糖の硝酸酸化や,水酸化ナトリウムに一酸化炭素を吸収させて生成するギ酸ナトリウムを加熱してシュウ酸ナトリウムとし,さらに水酸化カルシウムによってカルシウム塩に変え,次いで硝酸で処理するなどの方法で製造する。染料などの原料,繊維,麦わら,皮革の漂白剤,鉄さびの除去剤,インキ消しなどに用いられるほか,2水和物が純粋に得られることから中和滴定や酸化還元滴定の標準物質として使われる。
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化学辞典 第2版 「シュウ酸」の解説

シュウ酸
シュウサン
oxalic acid

ethanedioic acid.C2H2O4(90.04).植物界に広く存在し,とくにカタバミOxalisの葉には,シュウ酸の水素カリウム塩C2O4KHとして,また種々の植物細胞液中には,そのカリウムあるいはカルシウム塩として含まれている.多くのかび類の代謝産物でもある.セルロース,たとえばおがくずのNaOHによる融解あるいはHNO3による酸化によって生成するが,今日では一酸化炭素を濃いNaOH水溶液に吸収させてギ酸ナトリウムをつくり,それをカルシウム塩にかえて硫酸で分解してシュウ酸をつくっている.無水和物は無色・無臭の吸湿性結晶.融点189.5 ℃(分解).高温で加熱すると分解してギ酸,一酸化炭素,および二酸化炭素を生じる.1.900.K1 5.36×10-2K2 5.3×10-5.水,エタノールに可溶,エーテルに難溶.硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液を還元脱色する.空気中で容易に二水和物C2H2O4・2H2Oにかわる.二水和物は無色の板状またはプリズム状結晶.融点101.5 ℃.1.653.昇華性がある.注意して100 ℃ で乾燥すると無水和物にかわる.二水和物は酸,塩基および過マンガン酸塩滴定における標準物質として分析用に用いるほか,化学薬品,染料製造や漂白剤の原料として多方面に用いられる.[CAS 144-62-7][CAS 6153-56-6:二水和物]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シュウ酸」の意味・わかりやすい解説

シュウ酸
シュウさん
oxalic acid

最も簡単なジカルボン酸。次の構造をもつ。
物質交代の終産物として植物に広く存在する。分析標準液の標準物質に使われる。三角錐状晶。結晶水をもたないものは融点 189.5℃,もつものは 101℃。有機酸のうちでは強酸である。水,エチルアルコールに溶ける。染色助剤,化学合成薬品として重要。

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百科事典マイペディア 「シュウ酸」の意味・わかりやすい解説

シュウ(蓚)酸【しゅうさん】

化学式は(COOH)2。ジカルボン酸のうち,いちばん簡単な構造のもの。無色の結晶。空気中では2水和物が安定。100℃で結晶水を失う。融点は2水和物で99.8〜100.7℃,無水物で189.5℃。水,エタノールに可溶。漂白剤,染色助剤,分析試薬などに利用。カタバミなどの植物中に存在し,工業的には一酸化炭素からギ酸ナトリウムをつくり,カルシウム塩としたのち硫酸で分解して得る。

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栄養・生化学辞典 「シュウ酸」の解説

シュウ酸

 C2H2O4(mw90.04).(COOH)2.天然には植物にカルシウム塩やカリウム塩の形で見いだされる.カルシウムの利用効率を低下させるとされる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のシュウ酸の言及

【有毒植物】より

… 以上のような有毒植物に対しワラビのプタキロサイドやソテツのサイカシンなどにはいずれも,長期の摂取による発癌性が認められている。ヒガンバナなどリコリンやシュウ酸を含む植物と同様に,水にさらせば無毒化する。カラシナなどアブラナ科の植物は体内でゴイトリンを形成し,甲状腺でのヨウ素の取込みを阻害して甲状腺腫多発の原因となる。…

※「シュウ酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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