イソマツ科イソマツ属Limoniumには180種ほどが知られ,世界中の海岸や内陸乾燥地域に広く分布している。花卉園芸で切花やドライフラワーに多く用いるスターチスは,この属のものである。リンネが記載した広い意味のスターチス属Staticeは,研究の結果,頭状花序を有するアルメリア属Armeriaと巻散状円錐花序を有するイソマツ属Limoniumに分けられた。園芸界にスターチスの名が流布してから,2属に分けられたので,いまだにイソマツ属Limoniumの植物がスターチスと呼ばれている。多くの種が観賞用に栽培されるが,それらの中で重要なものに次のようなものがある。ハナハマサジ(スターチス・シニュアータ)L.sinuatum(L.)Mill.(=S. sinuata L.)は,切花や鉢植えにされる地中海地方原産の多年草であるが,一般に春まき一年草として栽培される。根生葉は波状に切れ込み,全面に粗毛がある。越冬中の苗は葉がロゼット状に平開しているが,春には立ち,3~5列の有翼の花茎を抽出する。草丈は50~60cm。花は3~4花,重なってついた小穂が1列に並ぶ。一見,紫・白・ピンク・紅・黄色などの花のようにみえるのは萼片で,この中に乾膜質で白い花をつけるが,目だたない。ニワハナビ(スターチス・ラティフォリア)L.latifolium Kuntze(=S. latifolia Smith)は,旧ソ連南部,カフカスからブルガリア地域原産の多年草。草丈50cm。根生葉はへら形で大きく,直立した花茎は細かく多数分枝して,灰青紫色の小花を7~8月に密生する。ダッタンハマサジL.tataricum(L.)Millは,シベリア,カフカス地方原産の耐寒性多年草。矮性(わいせい)になったものはとくにスターチス・インカーナvar.nanum Hort.(=S. incana Bieb.)と呼ばれ,栽培される。草丈20~30cm。小花は白藤色,花期は6~7月。タイワンハマサジ(スターチス・シネンシス)L.sinense Kuntze(S. sinesis Girard)は,台湾原産の多年草。高さ30cm。5~6月に白黄色の小花をつける。スターチス・ボンジュエリイL.bonduellii Kuntze(=S. bonduellii Lest.)は,アルジェリア原産の多年草だが,ふつう秋まき一年草として取り扱う。草丈50cm。5~6月に鮮黄色の小花をつける。スターチス・ペレジイL.perezii Hubb.(=S. perezii Staph)は,カナリア諸島原産の多年草。高さ60cm,根生葉はへら形。萼は紫青色。花冠は黄色。初夏から秋にかけて開花する。スターチス・スワロウイL.suwarowii Kuntze(=S. suwarowii Regel)は,トルコ西部地方原産の一年草。草丈40cm。花は紅紫色で,花穂は分岐して長さ15cmとなる。スターチス・カスピアL.bellidifolium Dum.(=L. reticulatum Mill.=S. caspia Willd.)は,ヨーロッパ,カフカス,シベリア原産の多年草。葉は倒卵形または披針形で根生し,7~8月に高さ15~20cmの花茎を立て,上部で多数分枝して小花をつける。萼は白色,花冠は淡紫色。低温に強く切花によいが,雨と暑さに弱い。
ハナハマサジを栽培するには,温暖地では種子は秋まく。一年草として扱う場合は,種子は花穂の萼片に包まれているので,播種(はしゆ)にあたっては川砂とよくもんでからまく。最近は萼片を除去した種子も市販されている。日当りがよく,水はけもよい砂質土を好む。多年草として扱う場合,寒冷地では,温暖地原産の種子は越冬のために霜よけや温室内での保護が必要である。栽培に古株を利用することはほとんどないが,花後に各節から出る腋芽(えきが)を挿芽しても,小苗をつくることができる。
執筆者:浅山 英一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イソマツ科(APG分類:イソマツ科)イソマツ(リモニウム)属の総称で、耐寒性・耐乾燥性の強い一年草または多年草。スターチスは旧属名である。台湾から旧ソ連地域、ブルガリア、地中海沿岸にかけて自生し、ほとんどが海浜生で、約120種ある。茎はよく分枝し、葉は根生する。花はごく小さく、分枝のすべてに無数につく。切り花や花壇に使われる。シヌアーツムsinuatum種は秋播(ま)きの一年草として扱われ、もっとも普通に栽培される。ハナハマサジともいう。葉は長披針(ちょうひしん)形で、5~6月、紫青または桃色の花を開く。ドライフラワーによく使われる。シネンシス種は多年草で、葉は長楕円(ちょうだえん)形でつやがあり、6~7月、淡黄色の花を開く。ラティフォリウム種は多年草で、花が無数につく姿を花火に見立て、ニワハナビの名もある。葉は緑灰色、長卵形で、7~8月、藤(ふじ)色の花を開く。また、ペレズィーは四季咲き性で、ハウス栽培で周年出荷される。
耐寒性は強いが、日陰地や多湿地ではよく育たないので、日当りがよく、水はけのよい所に植える。繁殖はシヌアーツムは実生(みしょう)により、その他は株分けと実生によったが、近年は組織培養(メリクロン)による増殖苗が広く出回っている。
[鶴島久男 2021年2月17日]
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