日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストッパード」の意味・わかりやすい解説
ストッパード
すとっぱーど
Tom(as) Stoppard
(1937― )
イギリスの劇作家。チェコスロバキアの生まれ。父親は会社専属の医師であったが、ユダヤ系であったためシンガポールの支店に移り、日本軍の侵攻直前に、自分は残って家族をインドに疎開させた。その父親の死後、母親がインド駐在のイギリスの軍人と再婚してストッパード姓となる。イギリスに渡り、17歳で学校を切り上げジャーナリストの道に進んだ。劇評などを書くかたわら、短編小説やラジオ用放送劇などを試みるうち、習作の一つが1963年にテレビ放映されデビューを果たした。その後66年にエジンバラ・フェスティバルのフリンジで上演された『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』が翌67年にナショナル・シアターで上演され、一躍新進劇作家として注目を集めた。この作品は、『ハムレット』の2人の端役をベケット風の主役に仕立て、本体の『ハムレット』を劇中劇に取り込み、虚構と現実の相対性、人間存在の不確実性に迫った秀作である。その後も奇抜な着想と大胆な言語実験を主軸に、演劇の虚構性をテーマに隠し込みながら現代に鋭く切り込む意欲作を次々に発表、20世紀後半のもっとも重要な作家の一人と目されるようになった。代表作は『ほんとうのハウンド警部』(1968)、『ジャンパーズ』(1972)、『トラベスティーズ』(1974)、『夜も昼も』(1978)、『ほんもの』(1982)、『ハップグッド』(1988)など。小説に『マルクィスト卿とムーン』(1966)がある。ほかに映画の脚本も手がけ、1990年に『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』を自ら脚本・監督を務め映画化した。話題作『恋におちたシェイクスピア』(1999)の脚本にも名を連ねている。
[大場建治]
『現代演劇研究会編『現代演劇5――特集トム・ストッパード』(1981・英潮社)』▽『トム・ストッパード著、吉田美枝訳『リアルシング――ほんもの』(1986・劇書房)』▽『現代演劇研究会編『現代英米の劇作家たち』(1990・英潮社新社)』▽『松岡和子訳『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(1994・劇書房)』