改訂新版 世界大百科事典 「ダーティハリー」の意味・わかりやすい解説
ダーティハリー
Dirty Harry
アメリカ映画。クリント・イーストウッドを1970年代以降現在に至る最大の〈マネー・メーキング・スター〉に押し上げる推進力となったアクション映画の人気シリーズ。〈地上最大の拳銃〉スミス & ウェッソン44口径マグナムをひっさげ,上司の指示も法的手続もときには無視して兇悪犯を追う,荒唐無稽なまでに行動力にあふれたサンフランシスコ市警殺人課のハリー・キャラハン刑事は,イーストウッドのヒーロー・イメージの中核をなす当り役であるばかりでなく,以後の〈ポリス・アクション〉映画の刑事像の原型になったといわれるほど大きな影響を及ぼした。第1作《ダーティハリー》(1971)は,イタリアの〈マカロニウェスタン〉のスターからハリウッドに返り咲いたクリント・イーストウッドが,アメリカの西部劇の衰退する中で〈ポンチョを都会の服に着替え,コルトを44口径マグナムに持ち替えて〉現れた(J. ハイアムズ《西部劇の生きた時代》1983),つまり西部劇的なパターンとヒーロー像を都会に移植することに成功した作品であるとみなされていて,同じドン・シーゲル監督による,アリゾナの保安官がニューヨークに出張して西部の流儀で犯人を追いまわす《マンハッタン無宿》(1968)がその原型だというのが通説である。《マンハッタン無宿》はシーゲル=イーストウッド・コンビの出会いの作品であり,《ダーティハリー》は4作目に当たる。このヒットによりイーストウッドは〈マネー・メーキング・スター〉のトップの座をジョン・ウェインから奪うが,皮肉なことにウェインはイーストウッド以前に《ダーティハリー》の出演交渉をうけて断わっていたといういきさつがある。アメリカでは法制度を軽視して〈ビジランティズム(自警団制度)〉を賛美する〈反動的〉〈ファシスト的〉映画だとの非難も浴びたが,アクション映画としての群を抜く刺激にあふれた作品であるという評価では衆目の一致するところとなっている。テッド・ポスト監督による《ダーティハリー2》(1973),ジェームズ・ファーゴ監督による《ダーティハリー3》(1976),そしてイーストウッド自身の監督による《ダーティハリー4》(1983)がつくられている(1988年には《ダーティハリー5》もつくられた)。
執筆者:宇田川 幸洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報