ピストルともいい、片手で持って射撃できる小型の銃のことをいう。現在、自動装填(そうてん)式のセミオートマチック・ピストル(自動装填式拳銃/自動拳銃)と、回転する蓮根(れんこん)状の弾倉を備えたリボルバー(回転式拳銃)が、もっとも多数製造され使用されている。このほかに射撃スポーツに用いられる単発の製品や、複数の銃身をまとめた連発拳銃、手動で連発できるものなどもある。
[床井雅美]
自動装填式拳銃は、あらかじめ銃身内に装填された弾薬が撃発されると、射撃の反動などを利用して発射済みの空薬莢(からやっきょう)(カートリッジ)を排出し、続いて箱型をした弾倉(ボックスマガジン)の中に収めた弾薬を、自動的に銃身内に送り込んで、次の弾薬の発射準備を整える形式のものをいう。次の弾薬を撃発・発射するためには、一度引き金を緩めて引き直す必要がある。軍用などの特殊な目的には、引き金を引いている限り発射し続けるフルオートマチック・ピストル(全自動拳銃)もつくられた。
回転式拳銃は、上述のように蓮根状の回転する弾倉(シリンダー)に弾薬を装填して、連発射撃できる形式の拳銃である。射撃方式として、引き金を引くだけで次々に連発できるダブルアクションと、ハンマー(撃鉄(げきてつ))を毎回起こしてから引き金を引くシングルアクションの2形式がある。
単発の拳銃には、レバーアクションやボルトアクションなど機関部後端を開いて弾薬を装填するブリーチローダー(後装)や、銃身を回転させて中折れ式に弾薬を装填するものなど、多くの形式がある。
複数の銃身をもつ拳銃は、リボルバーが発明される以前に連発式の主流であったが、重くかさばるため現在ではごく限られた特殊なものが製造されているだけである。
手動連発式の拳銃は、自動装填式のさきがけとして製造されたものが始まりである。現在製造されている手動式拳銃は、大きな弾薬を小型の拳銃で射撃するためのものなどの特殊な拳銃に限られている。
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第二次世界大戦では、軍用拳銃としておもに自動装填式拳銃が使用された。第二次世界大戦で使用された代表的な拳銃には、ドイツ軍の使用したダブルアクションのワルサーPPKやワルサーP38、アメリカ軍の使用した大口径のM1911A1ピストル(コルト・ガバーメント・モデル)、イタリア軍の使用した小型のベレッタM1934ピストル、ソ連の使用した単純な構造のトカレフTT1933、日本軍の使用した十四年式拳銃や九四式拳銃などがある。旧式のリボルバーも補助的に各国で使用された。なかでもイギリス軍は、エンフィールド・リボルバーやウェブリー&スコット・リボルバー、アメリカ製のスミス&ウェッソンビクトリー・リボルバーを多数使用した。
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現在軍用の拳銃だけでなく、警察用の拳銃も自動装填式拳銃に転換しつつある。各国で軍用、警察用に使用されている拳銃は数多いが、代表的な製品にベレッタM92F(イタリア原案)、グロックM17(オーストリア)、SIGザウアーP220シリーズ(スイス/ドイツ)、ヘッケラー&コッホP7M8(ドイツ)、マカロフ・ピストル(ロシア原案)などがある。警察用としてリボルバーの使用を続ける国も少なくない。
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射撃競技スポーツ用拳銃を製造するメーカーとして、スイスのヘンメリー社、ドイツのワルサー社、ドイツのアンシュッツ社などが有名である。射撃競技専用のエア・ピストルは、ヘンメリー社、ワルサー社、ドイツ・ファインエルグバウ社などが製造している。
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拳銃の起源は、銃砲と重なっている。中国で発明された火薬と原始的な銃砲は、アラビア人の媒介で13世紀前半にヨーロッパに伝わった。14世紀になるとドイツなどで原始的な火砲がつくられるようになったが、初めは技術的に小型にすることがむずかしかった。
最初に拳銃についての記述がみられるのは、1364年にイタリア人のグラチーニの著した『イタリア歴史文庫』Archivio Storico Italianoのなかである。この書籍中に、全長190ミリの短いローマンキャンドルが、スパンspanの名前で記述されている。1364年に刊行された『現代百科事典』Chronicles di Modernaには、軽量の短い銃砲が、ソシオッピscioppiの名前で記述された。英語のハンドガンが初めて記述されたのは1386年のことだった。1449年に著わされた書籍に、当時の騎兵が騎乗して使用する全長180ミリの銃身の銃砲のことを、ペトロネルpetronelとよんでいたことが記述されており、この呼び名が、後の拳銃を表わすピストルpistolの語源ではないかとされている。
片手で銃砲を扱うには、火縄を手に持って着火する初期のタッチホールロックでは不可能である。機械的な発火装置マッチロック(火縄式)が14世紀末に発明されて片手で射撃することが物理的に可能になった。だが、火薬の圧力に耐える銃身を軽く製造するには、さらに技術的な向上など時間がかかった。
マッチロックが開発されると、初め全長の短い単発の拳銃が開発された。続いて、複数の銃身を備えた連発式拳銃や、回転式の弾倉を備えた回転式拳銃が試された。これらの考案は発火方式が、火打石を利用したフリントロック(燧石(すいせき)式)、火薬による点火のパーカッションロック(管打(かんだ)式)にかわるたびに繰り返し製品化された。
拳銃が大きく変わるのは、18世紀に入って金属製のカップに弾丸、発射薬、雷管を一体化した薬莢(カートリッジ)が発明されてからである。薬莢が一般化すると、すでに高い発展段階にあった回転式拳銃は、弾薬の再装填が容易になり、さらに操作性のよいものになった。薬莢式の弾薬は、あらかじめ弾倉に装填した弾薬を、一本の銃身に次々と送り込んで射撃する連発式拳銃の可能性を生み出した。18世紀中ごろまでに、複数の銃身をもつ連発式拳銃や回転式拳銃は、点火・撃発方式を除けば、ほとんど現代の回転式拳銃と変わりないほどの発展を遂げた。
1880年代に銃砲の発明家たちは、弾薬を自動的に銃身へ送り込んで連発射撃できる、いわゆるオートマチック・ピストル(自動式拳銃)の発明を競った。最初に実用化されたのは、おもにドイツやオーストリアで発明された、指でレバーを動かして弾薬を次々に銃身に送り込み連発する、ハンド・リピーティング・ピストル(外力利用式拳銃)だった。
19世紀末になると、アメリカではジョン・M・ブローニング、ヨーロッパのドイツではゲオルグ・ルガー、フォン・パウル・マウザーなどが、弾薬を発射する際の反動を利用して発射済みの空薬莢を排除し、新たな弾薬を自動的に銃身に送り込んで連発する自動装填式拳銃を、次々に開発して実用化した。19世紀末から20世紀初頭にかけて、この3名の発明家だけでなく、数多くの発明家によって多数の自動装填式拳銃が発明されて製品化された。なかでも、ブローニングによって完成された構造は、単純かつ合理的だった。現代の多くの自動装填式拳銃も、原理的にはブローニングが提唱した構造を利用している。ブローニングは、拳銃だけでなく、自動装填式拳銃で使用する専用の弾薬も設計し、その多くの弾薬はACPの名前で現在でも使用され続けている。
[床井雅美]
日本初の国産近代拳銃は、東京造兵廠(ぞうへいしょう)で設計された回転式の二十六年式拳銃で、1893年(明治26)に軍用拳銃として陸軍に採用された。その後、南部麒次郎(なんぶきじろう)(1869―1949)によって南部式自動拳銃が開発されて、日本海軍の制式拳銃に選定され、タイや中国などにも輸出された。
南部式自動拳銃を原型に十四年式拳銃が開発され、これは1925年(大正14)に軍の制式拳銃となり、大量に製造されて第二次世界大戦で日本陸軍と海軍で使用された。航空機パイロットや戦車兵用に小型軽量の拳銃の要請が高まり、1934年(昭和9=皇紀2594)には九四式拳銃が制定されて生産された。
現在、日本の自衛隊は、SIGザウアーP220を制式拳銃に選定し、ライセンス国産させて供給を受けている。日本の警察は、主力の国産ニューナンブM60回転式拳銃のほか、ライセンス生産の自動装填式拳銃SIGザウアーP230日本型、輸入されたワルサーPPK/Sなどを使用している。
[床井雅美]
拳銃は、隠し持つことが可能で、犯罪に使用される恐れがあるところから、各国とも所持制限を加えている。先進諸国では、所持規制が基本的に私有財産の制限につながるところから、拳銃を射撃スポーツ用として所持許可を出している。
所持許可範囲は、特定の口径を除外する国、所持台数を制限する国などさまざまである。また多くの国で、射撃場などで使用するための所持許可証と、弾薬を装填して体につけて携帯するための携帯許可証を、別の許可基準で発行している。社会的観点から、犯罪者、麻薬中毒患者、精神病患者などを所持許可の対象から外している国も多い。アメリカでは、すべての短銃購入希望者の犯罪歴や精神障害歴の調査を義務づけたブレイディ法が1993年に成立、1994年には攻撃性が高く軍用に準じた襲撃用の自動小銃などの製造、販売、所有を禁止する犯罪防止法が成立した。
日本では、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)によって、民間人の拳銃所持は、例外的に許可されるスポーツ射撃用を除き、基本的に禁止されている。この法律では、火薬を使用して弾丸を発射する拳銃だけでなく、空気圧やガス圧で一定以上のエネルギーで金属製弾丸を発射する拳銃や、現状で発射できなくても、容易な改造によって金属製弾丸を発射できる拳銃も規制の対象にしている。このような規制法は、先進諸国のなかではもっとも厳しいものである。民間人の拳銃所持を厳しく取り締まる同様の法律は、旧社会主義国や、一部開発途上国、独裁国家にしかみられない。日本で拳銃の所持が許可されているのは、職務上その必要があると認められる自衛官、警察官、厚生労働省麻薬捜査官、国土交通省海上保安官などの国家公務員に限られる。なお、火縄式やフリントロック式、パーカッション式などの古式拳銃は、とくに文化財として価値のあるものを対象として、文化庁が登録証を出して所持を許可している。これらの古式拳銃を射撃に使用することは原則として禁止されている。
[床井雅美]