日本大百科全書(ニッポニカ) 「テレビ放送」の意味・わかりやすい解説
テレビ放送
てれびほうそう
テレビジョンの通信方式を利用して行われる放送。日本の放送法(昭和25年法律第132号)では、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」と定義され(第2条の1)、このうちテレビ放送は、「静止し、又は移動する事物の瞬間的影像及びこれに伴う音声その他の音響を送る放送」と定義されている(第2条の18)。現代の日本では、テレビはほぼすべての世帯に普及し、人々が社会生活を送るうえで必要なさまざまなニュース、情報や、身近な娯楽を提供するメディアとして、社会に大きな影響力をもっている。国民一人当りのテレビ視聴時間は1日平均3時間半~4時間前後に達しており、この傾向は1970年代から現在に至るまでほとんど変化がない。21世紀に入ってインターネットや携帯電話の急速な普及などメディア環境が変化し、10~20代の若年層の一部ではテレビ離れが生じているが、国民全体でみればいまなおもっとも長時間接触されるマス・メディアである。
[米倉 律]
テレビ普及の歴史
テレビの開発は19世紀末に始まり、1897年にはドイツのカール・ブラウンがブラウン管を発明、1907年にはロシアのロージングБорис Львович Розинг/Boris L'vovich Rozing(1869―1933)がブラウン管を利用したテレビを発明、1920年以降先進諸国での実験が繰り返されるようになった。1935年、ドイツで世界初の定時放送が始まると、イギリス、フランス、アメリカでも1940年代にかけて相次いでテレビ放送がスタートした。
日本で本放送が始まったのは1953年(昭和28)のことである。当時、テレビは高価で庶民の手の届く商品ではなかったが、1950年代後半から日本経済が高度成長期に入ると、白黒テレビが冷蔵庫、洗濯機と並ぶ「三種の神器」とよばれ個人消費を押し上げる代表的な消費財となった。そして1959年4月10日の皇太子(今上天皇)ご成婚の実況中継、1964年の東京オリンピック等のビッグイベントにも後押しされてテレビの普及は急速に進んだ。また1960年代後半以降は、テレビのカラー化が進み、放送も受像機もともにカラーが主流となった。カラーテレビの世帯普及率は、1975年に90%に達し、2002年(平成14)にはほぼ100%となった。なお、カラーテレビの登場以降も、衛星放送(1980年代~)やハイビジョン(1990年代~)、地上デジタル放送(2000年代~)など、技術革新や新サービスの登場が相次ぎ、それに伴って受像機・受信機も絶えず新型のものへと更新されている。
[米倉 律]
テレビ放送の種類、系列
日本のテレビ放送には、地上波放送、放送衛星を利用したBS放送、通信衛星を利用したCS放送、そしてケーブルテレビの4種類がある。このうち地上波のテレビ放送を行う事業者は、受信料収入を主財源とする公共放送の特殊法人日本放送協会(NHK)と広告収入を主財源とする民間放送(民放)、そして放送を通じた大学教育を行う放送大学学園とに大別される。
NHKのテレビ放送(国内放送)は、総合テレビ、教育テレビ、BS放送に分かれている。NHKは東京の放送センターを本部とし、全国54の放送局を通じて全国放送および地域放送を行っている。
民放局は全国に127局(2011年時点)あり、その多くは、東京の5社(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)をキー局とするネットワークを構成している。ネットワークは、キー局が編成した番組を全国のローカル局に供給するシステムであると同時に、各ローカル局が制作、取材した番組やニュースをキー局に集約するシステムでもある。ネットワークの系列は、東京放送系のJNN、日本テレビ系のNNN、フジテレビ系のFNN、テレビ朝日系のANN、それにテレビ東京系のTXNの五つである。また、各ネットワークの在阪局は、近畿広域圏を中心にキー局に準じる番組編成とネットワーク放送を行っており、準キー局とよばれる。なお、キー局のネットワークには加盟せず、関東、中京、近畿の各広域圏内の都府県が放送エリアのUHFテレビ局は13社ある。
NHKおよび民放の各地方局の放送エリアはだいたいにおいて都道府県単位となっているが、関東、近畿、中京などでは数都府県にまたがる放送エリアをもつ局もある。関東地区の例でいえば、関東全域を放送エリアとする民放テレビ局5局およびNHK総合・教育の2局、それに都・県単位の放送エリアをもつ民放テレビ局が5局と、合計12局がひしめいている。しかし地方によっては、NHKのほかに民放テレビが1局ないし2局しかない県もある。
BSデジタル放送は、NHKと民間放送事業者9社が放送を行っている(2011年時点。BSアナログ放送は2011年7月に終了)。1996年にスタートしたCS放送は日本のデジタル放送のさきがけであり、170チャンネルを超える多チャンネルサービスが特徴で、スカパーJSATによって運営されている。
ケーブルテレビは1950年代なかばに地上波の僻地(へきち)・難視聴対策のために始まった。1990年代以降、多チャンネルサービスを特徴とする、いわゆる都市型ケーブルテレビが登場し普及が進んでいる(世帯普及率は2011年時点で46%)。
[米倉 律]
テレビ番組
テレビ番組は映像と音声(タイトルやテロップ、音楽、音響効果等を含む)を組み合わせてつくられているため、受け手(視聴者)の感覚や情緒に訴える力が強く、放送がもつ同報性、速報性というメディア特性も相まって大きな社会的影響力をもっている。とくにデジタル放送やハイビジョン映像では、映像がより高精細化し、よりリアルで迫力のある映像をいながらにして視聴することができるようになっている。
一般にテレビ番組は、その内容に応じて、報道番組、教育番組、教養番組、娯楽番組の4種類に大別される。報道番組には、ニュース番組や情報番組が、教育番組には学校放送番組、子供向け番組、語学番組などが含まれる。そして教養番組にはドキュメンタリーや紀行番組、文化・趣味にかかわる番組などが、娯楽番組にはドラマ・芸能・バラエティ・スポーツ番組などが含まれる。日本の放送法は、放送局(地上波等の基幹放送)がこれらのジャンルの番組をバランスよく編成することを求めている。しかしNHKが報道番組を、民放は娯楽番組を他のジャンルよりも長時間放送するなど、放送局によって一定の傾向や偏り等があることがしばしば指摘される。
また、近年の傾向として、テレビ番組の「オフジャンル化」とよばれる現象がみられる。番組ジャンル間の境界が曖昧(あいまい)になり、特定のジャンルに分類することの難しい番組が増加しているのである。とくに顕著なのは、バラエティ番組の演出・編集手法を取り入れる傾向で、たとえば報道番組や教養番組であっても、スタジオセットや出演者、内容の構成、カメラワーク等の面でバラエティ番組に類似し、特定のジャンルに分類しづらい番組が増えている。
[米倉 律]
テレビ視聴率
国民がどのテレビ番組をどれだけ視聴しているかを示す指標の一つがテレビ視聴率である。視聴率は、視聴率調査エリア内の世帯あるいは個人のうち何%が各番組を視聴したかを計測したデータで、日本では民間調査会社のビデオリサーチ社と、NHKとが定期的に調査を行っている。広告主は視聴率の高い番組で放送されるコマーシャルのほうがより広告効果が高いとみなすため、民放テレビ局の場合は、番組の成否も収入も、この視聴率に大きく左右されることになる。時としてテレビ番組の過度の商業主義化やセンセーショナリズム、低俗化などが指摘される背景には、こうした激しいテレビ視聴率競争がある。
ただし、個々のテレビ番組の視聴率は全体的には長期低落傾向にある。『紅白歌合戦』(NHK)やスポーツ中継、人気ドラマなどが50~70%を超えるような超高視聴率を記録していたのは地上波の全盛期ともいえる1960~1970年代のことである。1980年代以降は衛星放送やケーブルテレビ、インターネット等の普及による多メディア・多チャンネル化や、人々のライフスタイルや価値観の多様化等の影響で視聴の個人化・分散化が進んだこともあり、個々のテレビ番組の視聴率がかつてほどの高率を記録することはほとんどなくなっている。
一方、テレビ視聴形態や受信機の技術革新は、視聴率測定方法にも変化をもたらしつつある。視聴率調査は、家庭における据置き型テレビによるリアルタイムでのテレビ視聴のみを調査対象としてきた。しかし1990年代以降、ビデオデッキやDVDレコーダー、ハードディスク内蔵型レコーダー等が普及したことによって、番組をリアルタイムではなく録画して視聴する、いわゆる「タイムシフト視聴」が増加したことに加え、携帯端末で受信することのできる「ワンセグ放送」の視聴や、インターネット経由でのテレビ番組の視聴等も一般的になってきており、こうした視聴実態も視聴率データに反映させる必要が生じている。日本のみならず世界各国の視聴率調査機関が、こうした変化に対応する新しい測定方法の模索を続けている。
[米倉 律]
テレビ放送の体制・制度
日本の放送業界は、1953年のテレビ放送開始当初から、公共放送NHKと民間放送の二元体制を軸に運営され、発展してきた。しかし世界を見渡すと、テレビ放送の制度や体制は、それぞれの国の歴史や文化、政治、経済など諸状況の違いからさまざまな形態がみられる。放送体制でいえば、国営放送のみの国、国営放送や公共放送もあるが商業放送が圧倒的に強い国、そして国営放送や公共放送と商業放送が併存する体制の国がある。また、公共放送だけをみても、その主たる財源が受信料である国(イギリス、ドイツ、日本など)、広告収入と受信料の併存的な財源で運営されている国(イタリア、韓国など)、国や地方自治体からの交付金や視聴者や企業からの寄付金などで運営されている国(アメリカ、カナダ、スペインなど)とさまざまである。
各国の放送制度、法規制のあり方も多様である。しかし多くの国々において放送(地上波放送)は、新聞や雑誌などの活字メディアにはない法規制の対象となっている。これは放送が電波という希少な資源を利用して営まれる事業であり、かつ社会的に大きな影響力があるがゆえに「公共財」としての性格をもつとみなされてきたためである。
日本の放送法は、放送を規律する目的として、(1)放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること、(2)放送の不偏不党、真実および自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、(3)放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること、の3点をあげ(第1条)、NHK、民放を問わず、放送事業に対して高度の公共性を要求している。また、放送番組についても、(1)公安および善良な風俗を害しないこと、(2)政治的に公平であること、(3)報道は事実を曲げないですること、(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、という四つの原則(番組編集準則)をはじめとして(第4条)、放送内容、表現内容にまで踏み込んだ規制が存在する。このほかにも放送事業者の免許制度や、ほかのメディア企業(新聞やラジオ局等)との間の株式相互所有に関する規制など、テレビ放送はさまざまな公的規制の対象となっている。
他方で、インターネットの普及や放送のデジタル化等に伴う「放送と通信の融合」とよばれる現象のなかで、「放送」や「テレビ」の概念自体が拡散し曖昧になってきている。それに伴って法制度もしだいに複雑化しているため、日本を含めた各国で見直しや再構築の動きが続いている。
[米倉 律]
テレビ放送の国際化
1990年代以降のテレビ放送業界の世界的潮流として、テレビ放送の国際化、グローバル化の傾向があげられる。国際放送の歴史は古く、イギリスBBCのラジオ国際放送(1927~)やアメリカの国策ラジオ放送VOA(1942~)など、第二次世界大戦前・戦中のラジオ放送にまでさかのぼることができる。冷戦時代以降の外交戦略においては、軍事力や経済力といった物理的な力(ハードパワー)と並んで、文化や政治理念、価値観、ライフスタイルに対する支持や共感を得るために有効な力(ソフトパワー)が注目されるようになり、そのための媒体としてテレビ番組、テレビ放送がとらえなおされてきた。
ハリウッドの映画、ドラマ、コメディは、衛星放送やケーブルテレビ等を通じて世界の国々で配信され、大きなソフトパワーを発揮してきた代表例であるが、1990年代にアジアを中心とする巨大ネットワークに急成長した香港(ホンコン)の衛星放送STAR(スター)や、2000年以降の東アジアにおけるいわゆる「韓流(はんりゅう)ブーム」など、テレビ放送やテレビ番組の国際化、国際流通は世界中で活発になっている。
ニュース番組においても事情は同様である。アメリカの24時間ニュース専門チャンネルであるCNNや、1991年の湾岸戦争後にスタートしたイギリスのBBCワールド、そして1996年に中東カタールで発足したニュース専門衛星テレビチャンネルであるアルジャジーラをはじめとして、各国がニュース番組の国際発信、国際放送に力を入れる動きが続いている。
[米倉 律]
最近の動向
地上デジタルテレビ放送
テレビ放送のデジタル化は、1990年代に衛星放送から始まり、ケーブルテレビ、そして地上波にまで及んでいる。放送のデジタル化は、高画質・高音質・多チャンネル・双方向サービス化といった、放送の高機能・高性能化を可能にすること、そして携帯電話の急速な普及で需要が逼迫(ひっぱく)してきた電波の周波数帯域を有効に利用することを目的としている。テレビの地上デジタル放送(地デジ)は、1998年9月にイギリスが世界で初めて本放送をスタートさせ、アメリカ、フランス、スウェーデン、ドイツなどがこれに続いた。アジアでも韓国が2001年に、日本が2003年(平成15)に、また台湾、香港などで順次開始された。地上デジタル放送のスタートに伴い、主要国のほとんどで2015~2020年くらいまでに地上アナログテレビ放送は終了する(日本は2011年7月)。
なお、地上デジタル放送の伝送方式には、ヨーロッパ方式(DVB-T)、アメリカ方式(ATSC)、日本方式(ISDB-T)、中国方式(DTMB)などがある。このうち日本方式の採用は南米で広がっており、ブラジルが2007年から、ペルーが2010年から本放送を開始、その他の南米諸国もこれに続いている。
[米倉 律]
放送と通信の融合
放送のデジタル化、ブロードバンド・インターネットの普及などを背景に、世界の多くの放送事業者がテレビ番組のインターネット配信を積極的に行うようになっている。アメリカのNBC、CBS、ABCの3大ネットワークすべてが2005~2006年前後からニュース番組を放送とインターネットへ同時配信、ドラマやコメディなどの人気番組のVOD(ビデオ・オン・デマンド)有料サービスを始めた。またイギリスの公共放送BBCも2007年から「iPlayer(アイプレイヤー)」とよばれるVOD型サービスを開始した。これは放送後7日分の番組をインターネットで視聴できる無料サービスである。これに追随する動きは世界中に広がり、日本でもNHKが同様のサービスを実施している。
さらに、従来の放送事業者ではなく、電話会社やインターネット・プロバイダーといった通信事業者等が、テレビ番組やその他の動画コンテンツを独自に収集して多チャンネルサービスを行い、既存の衛星放送やケーブルテレビとの視聴者獲得競争に発展している。ただし、テレビ番組をインターネット上で利用する際には、放送利用とは異なる著作権処理が必要となるが、テレビ番組では制作にかかわる多様な立場の人々(出演者、原作者、脚本家、放送作家、音楽家等)に著作権が存在するために権利処理の手続が煩雑となっている。そしてこの問題が日本における「放送と通信の融合」の進展にとってのネックともなっている。
[米倉 律]
テレビの今後
テレビ業界はいま、デジタル化や多チャンネル化、インターネットの普及や「放送と通信の融合」などのメディア環境の変化にさらされ、先行きが不透明な状態となっている。放送局にとって、いわば国策として進められた地上デジタル化は特段の収益向上にはつながらないにもかかわらず、多額の設備投資が必要であり、結果的に経営を圧迫することになった。また、インターネットの急速な普及と、とくに若年層で進みつつあるテレビ離れは、テレビのニュース・情報媒体としての影響力や存在感、そして広告媒体としての訴求力を相対的に低下させつつある。こうした傾向は、日本のみならず世界の多くの国々で共通して生じている。そうしたなか、従来型の「テレビ局」「放送局」から、インターネット時代に適合した「メディア産業」「コンテンツ産業」へと構造転換し、新たな収益源やビジネスモデルを確立しようとする模索が続けられている。
[米倉 律]
『舟田正之・長谷部恭男編『放送制度の現代的展開』(2001・有斐閣)』▽『NHK放送文化研究所監修『放送の20世紀』(2002・NHK出版)』▽『藤竹暁編著『図説 日本のマスメディア』 第2版(2003・NHK出版)』▽『音好宏著『放送メディアの現代的展開』(2007・ニューメディア)』▽『島崎哲彦・池田正之・米倉律編著『放送論』(2009・学文社)』▽『NHK放送文化研究所編『データブック世界の放送2011』(2011・NHK出版)』