ディオゲネス(英語表記)Diogenēs

デジタル大辞泉 「ディオゲネス」の意味・読み・例文・類語

ディオゲネス(Diogenēs ho Sinōpeus)

[前404ころ~前323ころ]古代ギリシャの哲学者キニク学派アンティステネス弟子。世俗の権威を否定し、自然で簡易な生活の実践に努め、「樽の中のディオゲネス」と呼ばれた。アレクサンドロス大王との問答は有名。シノペのディオゲネス。
[補説]日光浴中のディオゲネスにアレクサンドロス大王が「望みはないか」とたずねたところ、「そこに立たれると日陰になるのでどいてほしい」と答えたという。

ディオゲネス(Diogenēs ho Seleukeus)

[前240ころ~前152]古代ギリシャの哲学者。バビロニアセレウケイアの生まれ。クリュシッポスの弟子。ストア学派の学頭としてタルソスゼノン後継者。セレウケイアのディオゲネス。バビロニアのディオゲネス。

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精選版 日本国語大辞典 「ディオゲネス」の意味・読み・例文・類語

ディオゲネス

  1. ( Diogenēs )
  2. [ 一 ] 古代ギリシアの哲学者。シノペの生まれなので「シノペのディオゲネス」と呼ばれた。キュニコス派犬儒学派)の代表者。自足と無恥が幸福のために必要と説き、反文化的で自由な生活を実践。(前四〇四頃‐前三二三頃
  3. [ 二 ] 古代ギリシアの哲学者。「セレウケイアのディオゲネス」「バビロニアのディオゲネス」とも呼ばれる。ストア派のゼノンの後継者。(前二四〇頃‐前一五二

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改訂新版 世界大百科事典 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス(シノペの)
Diogenēs
生没年:前400ころ-前325ころ

ギリシアの哲学者。キュニコス(犬儒)学派の代表的人物で,いわゆる〈樽のディオゲネス〉として知られる。若いころ黒海沿岸のシノペSinōpēで贋金作りをしており,発覚してアテナイに亡命したが,その後も精神的な意味での贋金作り,つまり公認の価値と異なった価値の創造を行ったといわれている。アンティステネス学統を受け継ぎ,いっさいの物質的虚飾を排し,最小限の生活必需品だけで生きる自然状態こそ,人間にとって最高の幸福だとした。衣服をつけず,靴もはかず,野犬のように街頭に寝泊りし,樽を棲家とし,公衆の面前で女性と交わったという。〈恥をなくすこと(アナイデイアanaideia)〉によって,あらゆる因襲,権威から解放されること,これが魂の〈自足(アウタルケイアautarkeia)〉を目ざす彼の哲学的実践であった。その弟子テーバイのクラテスKratēsは師説を広め,〈無所有〉こそ,いっさいの苦しみ,葛藤から逃れる秘訣とし,後のストア学派の前触れとなった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス(シノペのディオゲネス)
でぃおげねす
Diogenēs ho Sinōpeus
(前404ころ―前323ころ)

古代ギリシアの哲学者。黒海沿岸の町シノペに生まれる。偽金鋳造のかどで故郷を追われアテネに住み、アンティステネスに師事したと伝えられる。多くの著作が彼に帰せられているが、真偽のほどは疑わしい。幸福とは人間の自然な欲求をもっとも容易な方法で満足させることである、自然なものは恥ずかしくも見苦しくもないから公にすべきである。この原理に反する慣習は自然に反するものであって従うべきではない、などと説き、これに倣って、自らも貧乏と無恥に支えられた自足の生活を送った。このため、「犬」とあだ名され、その一派はキニコス(犬の)学派とよばれるに至った。日光浴をしていたとき、アレクサンドロス大王がやってきてそばに立ち、「望みがあれば申し出よ」とことばをかけたところ、「わたしの日陰になってくれるな」と答えたという話は有名である。

鈴木幹也 2015年1月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス[シノペ]
Diogenēs

[生]前412頃
[没]前324頃.コリント?
シノペ出身のギリシアの哲学者。小ソクラテス学派のキュニコス派の代表的存在で,「樽のディオゲネス」として有名。一説にアンチステネスの弟子。「社会的風習の蔑視」の罪で告訴され,故郷を追放された。アテネに出たのちも,あらゆる慣習的行為や社会通念を軽蔑し極貧の生活に甘んじた。幸福はただ自然的欲求に従った苦労のない自由な生活,すなわちソクラテス的な意志の強さによる節制と無恥の心に支えられてなにものをも顧みることのない自足の生活のうちにあると考えた。アリストテレスはこのような生活態度をとらえて犬と呼んだが,この学派の生活態度は一体にそうであったのでキュニコス (犬のような) 派といわれた。アレクサンドロス大王とのことをはじめ,彼についての逸話は多いがいずれも疑わしい。著作としては,無政府主義的なユートピアの生活を描いた『国家』のほかは,彼のものとされる悲劇も対話篇も真作かどうか確かでない。

ディオゲネス[アポロニア]
Diogenēs

前5世紀頃のギリシアの折衷主義的哲学者,自然学者。アナクサゴラスの同時代者。ミレトス派のアナクシメネスとアナクサゴラスの教説の折衷を試み,万物のアルケを空気とする一方,万物を秩序づけるものとして理性を要請した。著書としては『自然について』 Peri physeōsの断片が伝わる。

ディオゲネス[セレウケイア]
Diogenēs

[生]前240頃
[没]前152頃
チグリス河岸のセレウケイア出身の初期ストア派の哲学者。バビロニアのディオゲネスともいわれる。クリュシッポスの弟子。タルソスのゼノンを継いでストア派の学頭となる。文法学の発展に寄与した。パナイティオスの師。

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百科事典マイペディア 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス

古代ギリシアの哲学者。黒海沿岸のシノペの生れ。アンティステネスの弟子でキュニコス学派の代表的人物。禁欲・自足・無恥を信条とし,因襲から解放された自由生活を実践。樽(たる)に住む極端に簡素な生活はアレクサンドロス大王に羨望(せんぼう)されたという。裸同然の風体,公衆の面前での性交,白昼に明かりを手に〈人間はおらぬか〉とよばわったなど,奇嬌な言行にまつわる逸話が伝わる。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ディオゲネス」の解説

ディオゲネス
Diogenes

前400頃~前325頃

黒海沿岸シノペの人。大樽(おおだる)を住居とするなどかずかずの奇行をもって知られるキュニコス派の代表的哲学者。コリントアレクサンドロス大王に望みを聞かれ,「日を遮らないでほしい」と答えたと伝えられる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ディオゲネス」の解説

ディオゲネス
Diogenes

前400ごろ〜前325ごろ
古代ギリシアのキュニコス派の哲学者
アンティステネスの弟子。家のかわりに樽に住んだといわれ,旧来の道徳慣習を無視して無欲の生活を送った。ぼろきれ1枚と頭陀袋 (ずだぶくろ) 一つしか持たず,犬族(キュニコス)と呼ばれた。

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世界大百科事典(旧版)内のディオゲネスの言及

【ナイル[川]】より

…ナイルの水源について古代エジプト人は知識をもっていなかった。後1世紀のギリシアの船乗りディオゲネスは,東アフリカ海岸から内陸部にはいり,ナイル川の水源が二つの湖であるとの情報をもたらした最初の人である。2世紀のアレクサンドリアの地理学者プトレマイオスはナイル水系図に二つの大湖を描いた。…

【コスモポリタニズム】より

… 社会的には自己の生活圏が世界的規模にまで拡大した場合,または各種の社会集団の激しい対立により,平和状態が強く希求されるような場合に出現する。思想史的にみると,古代ギリシアでは前4世紀にキュニコス派のディオゲネス(シノペの)やその一派がみずからをコスモポリテスと称して,せまい都市国家的な社会的風習を退け,超国家的・個人主義的な生活意識や思想をもったことに始まる。だがコスモポリタニズムが本格的に現れたのは,都市国家崩壊後のローマ帝国の成立により,ローマ的平和,世界国家の概念がつちかわれた後である。…

※「ディオゲネス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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