不飽和脂肪酸のうち、水素が炭素の二重結合を挟んでそれぞれ反対側につく、トランス型の構造をもつもの。自然界に存在する不飽和脂肪酸の二重結合のほとんどは水素が同じ側につくシス型であるが、部分水素添加油脂(マーガリン、ショートニングなど)や、ウシなどの反芻(はんすう)動物の体脂肪と乳脂肪にはトランス型の二重結合をもつトランス脂肪酸が存在する。このうち摂取量の多い部分水素添加油脂中のトランス脂肪酸が、健康への影響を問題視されている。これは工業型トランス脂肪酸ともよばれ、エライジン酸が主成分の一つである(反芻動物油脂ではバクセン酸が主成分)。摂取量に応じていわゆる悪玉コレステロールであるLDLコレステロールの値を上昇させるだけでなく、善玉コレステロールのHDLコレステロール値を低下させ、飽和脂肪酸よりも強い心血管疾患の危険因子である。このため、アメリカ、カナダなどでは一定量以上のトランス脂肪酸を含む食品に対し、「1サービング(1食分)当り0.2~0.5グラム」等の含量表示の義務化が、デンマーク、スイスなどでは含量規制(100グラム当り2グラム以上のトランス脂肪酸を含む油脂の使用禁止)が行われている。世界各国での規制の動きもあり、2005年ごろから食品中のトランス脂肪酸含量は低減化されているが、摂取量低減策としては含量規制がより効果的である。世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の指針である、1日当りエネルギー摂取量の1%以下が世界的にトランス脂肪酸の摂取目安とされている。日本人のトランス脂肪酸摂取量は、内閣府の食品安全委員会の報告では1日当り摂取エネルギーの0.3%程度で、平均的には問題とならないが、脂質摂取量の個人差は著しく、とくに青年層で注意が必要である。5年ごとに厚生労働省が改定を行っている「日本人の食事摂取基準」の2010年版では、できるだけ少なく、と述べるに止まっているが、食品安全委員会で健康への影響を取りまとめており、消費者庁は2010年に情報開示に関する指針(案)を提示している。表示方法は、100グラムもしくは100ミリリットル、または1食分、1包装その他1単位当りのトランス脂肪酸の含有量をグラムで表示する(ただし0.3グラム未満はゼログラムと表示できる)ものである。
[菅野道廣]
(星野美穂 フリーライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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