コレステロール(読み)これすてろーる(英語表記)cholesterol

翻訳|cholesterol

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール
これすてろーる
cholesterol

高等動物の細胞成分として広く存在する代表的なステロイド化合物の一種。コレステリンともいう。有機溶媒には溶けるが、水、アルカリ、酸には溶けない。ステロイド核にヒドロキシ基と二重結合を一つずつもっているのが特徴で、このヒドロキシ基がジギトニンジギタリスに含まれるステロイド系サポニンの一種)と特異的に反応し、難溶性の分子化合物をつくって沈殿する。この反応を利用して化学分析が行われる。18世紀末にヒトの胆石中に発見されたのが最初で、動物の体内にのみ存在し、とくに脳や神経組織に豊富である。コレステロールリン脂質とともに細胞の膜系を構成する主要な成分であり、膜の構造や機能に大きな役割を果たしている。コレステロールはまた、細胞内情報伝達(シグナリング)のプラットホームとよばれている膜のマイクロドメイン、ラフトおよびカベオラの主要構成成分である。通常、遊離の状態で、また高級脂肪酸とのエステルとして存在し、その比率はそれぞれの組織でほぼ一定である。赤血球膜のリン脂質とコレステロールおよびコレステロールエステルの量的関係は、動物種により異なるが、膜の構造を保持し、溶血性毒素の攻撃から守っている。消化管からはコレステロールのまま直接吸収され、排泄(はいせつ)もそのままの形で行われる。生体内ではコレステロールから、ビタミンD、性ホルモン(エストロンテストステロン)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン、胆汁酸などが合成される。

 コレステロールの生合成ではメバロン酸代謝経路においてヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)還元酵素によりHMG-CoAからメバロン酸が合成される段階が律速段階である。HMG-CoA還元酵素の発現は細胞内コレステロール含量により負のフィードバック制御を受けており、細胞内コレステロールのホメオスタシス(恒常性)が保たれている。

[小泉惠子]

食生活との関係

コレステロールは多くは肝臓で合成されるが、一部は食物から摂取される。合成される量はほぼ3分の2、食物からとられる量が3分の1程度で、摂取量が多いと合成量は抑制される。

 コレステロールは体内では、細胞膜の構成成分として存在し、とくに血管壁の保護、赤血球の保護には重要な働きをする。また、コレステロールは体内で性ホルモンや胆汁酸、ビタミンDの原料になる。コレステロールが不足した場合は、脳出血などの疾患をおこしやすく、また貧血も生じやすい。

 一方、血中にコレステロールが多くなると、動脈硬化の原因となる。血中に含まれるコレステロールはリポタンパク質の形で存在する。すなわち、コレステロールは水に溶けにくいので、タンパク質と結合することにより血液とともに運ばれる。リポタンパク質は密度によって分類され、その作用が異なる。低密度リポタンパク質LDL)は、コレステロールを肝臓から血中や組織へ運び、逆に高密度リポタンパク質(HDL)は、コレステロールを肝臓へ運ぶ。そのため、HDLコレステロールが少ない人に高コレステロール血症や虚血性心疾患の発症が多いといわれる。日本人のHDLコレステロール平均値は血清1デシリットル中44ミリグラムで、少なくとも40ミリグラム以上含有していることが望ましい。

 血中コレステロール値は、飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を多く摂取することによって高くなり、植物性脂肪のうち、リノール酸など不飽和脂肪酸、すなわち必須(ひっす)脂肪酸の多い植物油は、血中コレステロール値を下げる作用がある。また、ペクチンやコンニャクマンナンなどの水溶性の食物繊維を多くとることでも、血中コレステロール値が低下する。シイタケに含まれるエリタデニンにもコレステロール低下作用がある。いずれもコレステロールの腸内排出を促すためである。なお、血中総コレステロール値の標準は、国や年齢によっても異なるが、血清1デシリットル当り130~220ミリグラムが望ましく、240ミリグラム以上は治療対象とされる。

[河野友美・山口米子]

『斎藤康・山田信博編『コレステロールをみる・考える』(1999・南江堂)』『寺本民生著『高脂血症――気になる動脈硬化・コレステロール』(1999・梧桐書院)』『藤山順豊監修『コレステロールと中性脂肪の基礎知識』(2001/改訂版・2007・日東書院)』『牧野直子監修『コレステロール・食物繊維早わかり Food & Cooking Data』(2003・女子栄養大学出版部)』『板倉弘重著『コレステロールの医学――文明病の本態をみる』(有斐閣新書)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール
cholesterol

コレステリンともいう。高等動物の脂肪の不鹸化物質中より,白色光沢のある鱗片状晶として得られる脂肪様物質。特に脳,神経組織,副腎に多く,肝臓,腎臓などにも含まれる。融点 149℃。水,アルカリ,酸に不溶。有機溶媒に溶ける。動物体内で組織脂肪としてリン脂質と結合して存在,また遊離しても存在する。胆汁酸,ビタミンD,性ホルモン,副腎皮質ホルモンなどは食物として摂取したコレステロールから合成される。妊娠,ネフローゼ,高血圧症,糖尿病,動脈硬化症などのとき,血中コレステロール量は増加する。生理作用,酸化過程は不明の点が多い。

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