ドンカルロス(読み)どんかるろす(その他表記)Don Carlos

精選版 日本国語大辞典 「ドンカルロス」の意味・読み・例文・類語

ドン‐カルロス

  1. [ 一 ] ( Don Carlos de Austria ━デ=オーストリア ) スペインの王子。フェリペ二世の長子。王位継承者であったが退けられ、父王暗殺を謀ってとらえられ、獄死。(一五四五‐六八
  2. [ 二 ] ( Don Carlos ) スペインの王位請求者。カルロス四世の次男。王位継承権を奪われ、兄フェルナンド七世の死後、保守派と結託して内乱(カルロス戦争)を起こしたが敗れ、フランス亡命。(一七八八‐一八五五
  3. [ 三 ] ( Don Karlos ) [ 一 ]を題材としたシラーの韻文詩劇。五幕。一七八七年完成。婚約者を父王に奪われた悲境から超克、ついに国家への愛にめざめた主人公の気高い志操が、ドイツ国民の共感を呼んだ。
  4. [ 四 ] ( Don Carlos ) ( 「ドン‐カルロ」とも ) [ 三 ]の詩劇をもとにベルディが作曲した同名のオペラ。一八六七年、パリ‐オペラ座初演

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドンカルロス」の意味・わかりやすい解説

ドン・カルロス((1788―1855))
どんかるろす
Don Carlos
(1788―1855)

全名カルロス・マリア・イシドロ・デ・ボルボンCarlos María Isidro de Borbón。スペインの王位要求者。カルロス4世の子、フェルナンド7世の弟。フェルナンドのわずかな改革にも反対する超保守的勢力は、彼のもとに結集したため、カルロス派=「カルリスタ」とよばれていた。フェルナンドの死の直後、1833年、彼はイサベル2世の即位に対し女子の継承権を認めず、カルロス5世の名で即位を宣言した。この宣言に呼応して内乱、カルリスタ戦争が勃発(ぼっぱつ)する。彼は当時国外にいたが、1834年にナバラに入り、戦争を指揮した。自由主義的、ブルジョア的改革に反対し、教会と伝統の擁護を主張して、バスク、ナバラ、アラゴンカタルーニャなどで勢力を得た。また、ロシア、オーストリアに支持され、1837年にはマドリード近郊に迫ったが、内部対立、軍事物資の欠乏のため劣勢となり、1839年和平を結び、亡命した。1845年、子に王位継承権を譲る。1855年3月10日当時オーストリア帝国領であった(現在イタリアトリエステで死去。カルリスタの運動は伝統主義ともよばれ、性格を変えながら20世紀以降現代に至るまで続いている。

[中塚次郎]


ドン・カルロス(シラーの戯曲)
どんかるろす
Don Carlos

ドイツの劇作家シラーの戯曲。1787年刊。スペイン国王フェリペ2世の嫡子ドン・カルロス(1545―68)の早死をめぐる史話をもとにして書かれた五幕の韻文悲劇。初め「王家の家庭劇」として構想されたが、しだいに政治劇的色彩を強め、最終的には人道主義的政治理想の実現を誓い合う2人の青年が、古い政治体制に挑戦し敗北するさまを描いた感動的なヒューマニズムの悲劇となった。王子カルロスはかつての婚約者でいまは継母となっているエリザベトへの恋情を断ち切れず、父王との折り合いも悪い。そこへ王子の幼いときからの友人ポーザ侯が圧制に悩む属領オランダから帰ってきて、王子にオランダ人民を救済するよう頼む。恋と理想の間を動揺する王子を説き伏せ、王子のオランダ行きを画策するうちに、ポーザは策におぼれ、自分の生命を犠牲にするはめに至る。友人の死によって決意を新たにした王子は、王妃に別れを告げに行ったところを父王と宗教裁判長に捕らえられる。巨大な歴史の流れのなかの個人の生き方を見据えようとするシラーの史劇の最初の作品である。この戯曲をもとにイタリアの作曲家ベルディはオペラ『ドン・カルロ』(1866作曲、翌年パリ初演)をつくっている。

[内藤克彦]

『佐藤通次訳『ドン・カルロス』(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「ドンカルロス」の意味・わかりやすい解説

ドン・カルロス

シラーの韻文戯曲。5幕。1787年作。スペイン王フェリペ2世長男のカルロス王子〔1545-1568〕をモデルとする。婚約者を父に奪われ,継母への恋情を絶ち切れぬ王子カルロスが,新時代の人道主義思想を代表する友人ポーザ侯に励まされて思想的に成長する過程を描く。〈シュトゥルム・ウント・ドラング〉から古典主義への移行を示す作品。ベルディによってオペラ化(1867年フランス語版初演,1884年イタリア語版4幕に改訂)。

ドン・カルロス

スペイン国王カルロス4世の子。兄フェルナンド7世の死後,保守勢力を率いてカルロス5世を称し,摂政マリア・クリスティナ派に反抗して内乱(カルリスタ戦争)を起こしたが,失敗してフランスに亡命した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドンカルロス」の意味・わかりやすい解説

ドン・カルロス
Don Carlos; Carlos María Isidoro de Borbón

[生]1788.3.29. マドリード
[没]1855.3.10. トリエステ
スペイン王フェルナンド7世の弟。『サリカ法典』により正統な王位継承者となったが,フェルナンドの娘イサベル2世に王位が与えられたことからカルリスタス (→カルロス主義 ) に支持されて,カルリスタ戦争 (1833~39) を起したが敗れて,フランスに亡命。

ドン・カルロス
Don Carlos; Carlos Luis Fernando de Borbón

[生]1818.1.31. マドリード
[没]1861.1.13. トリエステ
スペインの王位継承者。カルリスタス (→カルロス主義 ) の最初の王位要求者であるフェルナンド7世の弟ドン・カルロス (1788~1855) の長男。カルロス6世の名で父から王位継承権を相続 (45) ,スペイン上陸を企て捕えられたが,1860年継承権放棄を条件に釈放された。

ドン・カルロス
Don Carlos

ドイツの詩人,劇作家 J.C.F.シラーの戯曲。5幕の悲劇。 1787年ハンブルクで初演。ドン・カルロス・デ・アウストリアを中心に,腐敗したスペイン宮廷と,ネーデルラント地方でのスペインの圧政を描いた韻文歴史劇。のちベルディによってオペラ化 (1867) された。

ドン・カルロス
Don Carlos; Carlos María de los Dolores de Borbón

[生]1848.3.30. リウブリアン
[没]1909.7.18. バレセ
スペインの王位継承者。ドン・カルロス (1818~61) の弟ドン・フアンの子。父から王位継承権を相続し (68) ,カルロス7世を称した。反乱に失敗して,フランスに亡命した (76) 。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ドンカルロス」の解説

ドン・カルロス
Don Carlos

1788~1855

スペイン王カルロス4世の第2子。兄フェルナンド7世によって王位継承権を否定されたため,兄の死後,摂政マリア・クリスティナに抗して内乱を起こした(1833~39年)が,挫折してフランスへ亡命した。

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デジタル大辞泉プラス 「ドンカルロス」の解説

ドン・カルロス

宝塚歌劇団による舞台演目のひとつ。脚本:木村信司。2012年、宝塚大劇場にて雪組が初演。16世紀のスペインを舞台とした作品。

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367日誕生日大事典 「ドンカルロス」の解説

ドン・カルロス

生年月日:1788年3月29日
スペイン王フェルナンド7世の弟
1855年没

ドン・カルロス

生年月日:1818年1月18日
スペインの王位継承者
1861年没

ドン・カルロス

生年月日:1545年7月8日
スペイン王位継承者
1568年没

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世界大百科事典(旧版)内のドンカルロスの言及

【シチリア王国】より

… スペイン継承戦争の後,ナポリはオーストリアに,シチリア島はサボイア家に帰属したが(1713‐18),1718年にオーストリアが双方を統一した。ポーランド継承戦争後の34年にスペインのドン・カルロスがナポリ,シチリアを征服した(カルロス3世)。これ以後,シチリアはスペイン・ブルボン家の支配に服すことになった。…

【カルロス王子】より

…スペイン王フェリペ2世の長男。その不幸な生涯と謎に包まれた死は早くから反スペイン・キャンペーンの材料となり,その後シラーの戯曲とベルディの歌劇《ドン・カルロス》を通して伝説化され,広く知られるにいたった。両親がともに狂女王フアナの孫であり,かつ従兄妹同士で,カルロスは生来,肉体・精神ともに正常ではなかった。…

【シラー】より

…85年ライプチヒ移住後は,《犯罪者》(1786),《見霊者》(1787‐89)などの小説を発表。87年最初の古典主義戯曲《ドン・カルロス》を完成,政治的自由と人間性の問題を,理想主義的な主人公への共感を通して荘重に歌い上げた。歴史研究の成果に,《オランダ離反史》(1788),《三十年戦争史》(1791‐93)があり,カント哲学研究の成果には,《優美と品位について》《崇高について》(ともに1793)などが,またそれを基礎にしたシラー美学の集大成として《人間の美的教育に関する書簡》《素朴文学と感傷文学について》(ともに1795)がある。…

※「ドンカルロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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