日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルリスタ戦争」の意味・わかりやすい解説
カルリスタ戦争
かるりすたせんそう
19世紀中葉のスペインで3次にわたり起きた内戦(第一次1833~39、第二次1846~48、第三次1872~76)。フェルナンド7世の没(1833)後、当時3歳の王女イサベルの王位継承(摂政は母后)を認めず、王弟ドン・カルロスの即位を求める勢力(カルリスタCarlistas)が蜂起(ほうき)した。王族内紛争の形をとったが、カルリスタはおもにバスク、ナバラ、カタルーニャ地方の民衆に支持された。とくに農民、職人層には義勇兵としてカルリスタ軍に投じる者が多かった。ナポレオンのスペイン支配を覆した独立戦争(1808~14)でゲリラとして活躍した民衆は、相次ぐ政変と改革の不徹底に失望し、資本主義の跛行(はこう)的発展による経済苦境にあった。この不満のエネルギーは、中世的地方特権(フェロ)擁護、政教合一の「古きよき時代」への回帰を説き、ドン・カルロスをシンボルとする保守的貴族、教会によって領導された。1839年のベルガラ会戦の敗北(ドン・カルロスは亡命)後、中央政府の和解提案をめぐり、カルリスタは受容派(教会、貴族)と抵抗派(下級貴族、民衆)に分裂、ドン・カルロスにかわる王位請求権者の選定は抵抗派の手に移り、民衆戦争の性格を強めた。中央政府は3次にわたる戦争でいずれにも軍事的には勝利したが、隠然たるカルリスタ勢力を無視しえず、この戦争は現代スペイン国家形成に大きな影響を及ぼした。
[山本 哲]