日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒチビキ」の意味・わかりやすい解説
ヒチビキ
ひちびき / 緋血引
scarlet rubyfish
[学] Erythrocles microceps
硬骨魚綱スズキ目ハチビキ科に属する海水魚。土佐湾、兵庫県新温泉町付近の海域、および九州・パラオ海嶺(かいれい)から知られている。体は細長い紡錘形で、わずかに側扁(そくへん)する。体高は体長の24~26%。頭の背縁は緩く湾曲する。吻(ふん)は短く上顎(じょうがく)長のおよそ半分。目は大きく尾柄(びへい)長のおよそ半分。口は小さく、斜め上を向く。口を開けると上顎は伸出でき、口を閉じると下顎は上顎より突出する。上顎の後端は目の中央下に達する。上下両顎の前部に1~2列の小さい円錐(えんすい)状の微小な歯が並ぶ。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨には歯がない。主鰓蓋骨(しゅさいがいこつ)の後縁に1本の小さくて弱い棘(きょく)とよく発達した2本の平たい棘がある。鰓腔(さいこう)(えらが入っている空所)の後縁上部に溝があり、その下に1個の低い肉質突起がある。鰓耙(さいは)は上枝に8~10本、下枝に25~26本。体と頭部は口唇を除いて粗雑な櫛鱗(しつりん)で覆われる。側線は体の背縁に並行して走り、尾びれ基底に達する。尾柄や尾びれ基底の中央に側隆起がない。側線鱗は70~72枚。背びれと臀(しり)びれの軟条部に鱗鞘(りんしょう)(基底付近を覆う鱗(うろこ))がある。背びれは腹びれ基底上方から始まり、棘部と軟条部との間に深いくぼみがある。すべての背びれ棘は鰭膜(きまく)でつながり、細くて折れやすい。背びれは11棘12軟条、臀びれは3棘10軟条、胸びれは17~20軟条。尾びれは深く二叉(にさ)する。体色は背側面では黄色みを帯びた赤色で、腹側面では銀色がかった桃色。胸びれと尾びれは黄赤色で、その他のひれは淡黄赤色。虹彩(こうさい)は銀橙(ぎんとう)色。水深200メートル前後に生息し、底引網で多量に漁獲されることがある。小形種で最大体長は約15センチメートル。
ハチビキに似るが、本種は尾柄部に側隆起がないこと、鰓腔に1個の肉質突起があることなどで区別できる。
[尼岡邦夫 2023年5月18日]