ヒヤリ・ハット(読み)ひやり・はっと

知恵蔵 「ヒヤリ・ハット」の解説

ヒヤリ・ハット

医療事故には至らなくても、場合によっては事故に直結したかもしれないエピソードのことをいう。語源は、「ヒヤリとした」「ハッとした」。間違った医療行為が行われそうになったが未然に気づいて防ぐことができたケースや、行った医療行為に間違いがあったものの患者被害は及ばなかったケースなどがここに含まれる。
事故に至る事例背後には、それよりはるかに多数のヒヤリ・ハット事例が潜んでいる。そこで、ヒヤリ・ハット事例を収集し、分析して、再発を防ぐ手立てを考え、その情報を共有することが重大事故の防止につながるとされる。もとは労働安全の分野で生まれた概念で、事故=アクシデントに対して、インシデントということもある。
厚生労働省は、2001年に医療安全対策の一環として「リスクマネージメント作成指針」を発表し、ヒヤリ・ハット事例収集事業をスタートした。委託先の財団法人日本医療機能評価機構(医療の安全と質を評価する中立機関)では、現在もインターネット上のデータベース随時更新して公開している。これによれば、最も発生件数が多いのは薬剤に関するもので、続いて療養上の世話に関する事例、チューブドレーンに関する事例という順になっている。
なお、「リスクマネージメント作成指針」は、「医療事故」を「医療の全過程において発生するすべての人身事故」、「医療過誤」を「医療事故の一類型であって、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為」と定義し、ヒヤリ・ハットとは区別している。

(石川れい子  ライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報