中世イタリアの商都ピサにあり,イタリア・ロマネスク建築を代表する司教座聖堂(大聖堂)。付属して,〈ピサの斜塔〉の名で知られる鐘楼,洗礼堂,墓地カンポサント(聖なる土地の意)をそなえる。大聖堂はパレルモ沖海戦の勝利を記念して1064年ギリシア人ブスケトゥスBuschetus(生没年不詳)の設計により起工,1118年に献堂され,12世紀末にライナルドゥスRaynaldus(生没年不詳)が西側部分を延長してドームを架し,13世紀にファサードが完成して竣工した。身廊5廊,翼廊(トランセプト)3廊からなるラテン十字プランをもち,交差部を楕円プランの尖頭形単殻ドーム,身廊を木造天井,側廊を石造ボールトでおおう。内外壁を色違いの大理石による縞模様で仕上げ,外周初層を東方伝来の壁アーチ,ファサードと西側後正面をロンバルド・ロマネスク様式由来の列柱装飾歩廊とする。様式の混在は柔らかい色調のカラーラ大理石で統一され,洗礼堂,鐘楼にも共通する壁アーチ(初層)と列柱帯(上層)による装飾構成はピサ様式として近隣のルッカ,ピストイア,またリグリア海を越えたサルデーニャ,コルシカ両島に伝播した。ピサ生れのガリレイは同大聖堂内の揺れるランプを見て振子の等時性を直観したと伝えられる。
鐘楼(1173~14世紀後半)は地盤の不同沈下で建設中に傾き,そのまま完成された。傾斜は年々微増しており,保存修復に関する国際設計競技が行われたが,具体的方策はとられていない。鐘楼とほぼ同じ高さの洗礼堂(1152~14世紀末)は円錐・半球形の二重ドームでおおわれ,ニコラおよびジョバンニ・ピサーノ父子はその外装列柱帯に華やかなゴシック式破風装飾を加えた(13世紀後半)。洗礼堂内の説教壇(ニコラ・ピサーノ作)と大聖堂内の説教壇(ジョバンニ・ピサーノ作)はゴシック彫刻の代表作として知られる。回廊式の墓地カンポサントの名は1203年にゴルゴタの丘の土をここに運んだとする伝説にもとづく。建築群は,生(洗礼堂)から死(墓地)に至る信仰生活の象徴として,雑踏を避けた市北縁の地に建てられており,現在なお往時の雰囲気をよく伝えている。
執筆者:日高 健一郎
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イタリア中部、トスカナ地方の都市ピサにある、ピサ式ロマネスク様式の代表的建造物。一般に大聖堂は都市の中心部に建てられるのが普通であるが、ここでは郊外の広い地域を利用して建てられており、それがこの建造物のモニュメンタルな性格を強調するのに役だっている。
本堂、カンパニーレ(鐘塔。「ピサの斜塔」の通称で有名)、洗礼堂およびカンポサント(墓室)からなる建築群が、造営期間が数世紀にわたっているにもかかわらず、全体の調和と統一に破綻(はたん)をみせないのは、同一資材(白色大理石と多色大理石)の使用と、一定の建築的デザインの繰り返しによるためである。本堂の起工は1063年にさかのぼるが、現在の平面プランには当初のブスケートによる設計がほとんどそのまま残されていて、わずかに身廊の西端に三つの格間(ベイ)が追加されているのみである。西側正面は13世紀にライナルドによって完成されたが、大聖堂全体の工事の完了は14世紀であった。平面プランは五廊式身廊、三廊式翼廊およびアプスから成り立ち、身廊と翼廊の交差部には小さなクーポラ(椀(わん)を伏せた形の屋根)が架せられている。翼廊の天井がすべて交差ボールトであるのに対し、身廊のそれはバシリカ式聖堂の伝統に連なる木骨天井である。外壁の多色大理石による縞(しま)模様と盲アーチによるリズミカルな外観構成や、正面玄関上のアーケードを装う半円アーチと列柱のデザインは、北部イタリア固有の様式(ピサ式ロマネスク)である。
本堂の正面と向き合って建つ洗礼堂は、円筒形の壁体に半円ボールトを架したロマネスク様式であるが、外壁上部を取り巻くゴシック様式の装飾は、13世紀後半にニコラ・ピサーノとジョバンニ・ピサーノ父子によって行われた。斜塔の名で知られるカンパニーレは1173年に起工されたが、工事の途中地盤の陥没で傾斜したものである。しかしそのまま工事が進められ、14世紀後期に、最上階の鐘楼部を垂直にして工事が完了した。
[濱谷勝也]
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イタリアの代表的なロマネスク様式の教会堂。11世紀半ばにブスケートによって着工,12世紀にライナルドによるファサード(正面)をもって完成された。3廊式の袖廊(しゅうろう)が交差する5廊式ラテン十字()形プランのバシリカ建築で,交差部に楕円形の円蓋(えんがい)(ドーム)を架し,列柱と擬似アーケードで構成された華麗な外観を持つ。内部にはジョヴァンニ・ピサーノ作の説教壇など,洗礼堂にはニコラ・ピサーノ作の説教壇がある。鐘塔は「斜塔」として知られる。墓所のカンポ・サントを含めて統一的景観をなす。
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