ドーム(読み)どーむ(英語表記)dome

翻訳|dome

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドーム」の意味・わかりやすい解説

ドーム(屋根)
どーむ
dome

円蓋(えんがい)。クーポラcupolaともいい、椀(わん)を伏せた形の屋根(天井)一般をさす。もっとも原始的かつ単純なシェルター(小屋)が円形平面でドーム状屋根をもつことはよく知られている。墓も同様である。したがってドーム構造が、いついかにして誕生したか明確ではなく、いろいろな場所で独立におこったと考えられる。上にいくにしたがい半径を小さく中にせり出して積まれる擬似ドーム(ミケーネアトレウス宝庫)や、岩をくりぬいたドーム(エトルリアやローマのカタコンベ)、遺例はないが木造のドームなどが初期的段階を示すものである。

 ローマ時代はアーチボールトとともに、れんが造、石造の本格的なドームを発展させた。それらは永続性や力の象徴となった。ローマの古文書館タブラリウム(前78)は方形ドームの例として重要であり、パンテオン(2世紀初期)の直径43メートルに及ぶ重厚で巨大なドームは、明快な内部空間をつくりあげ、唯一の開口部が頂点にあけられた。ミネルバ・メディカ(250)はリブ肋骨(ろっこつ))を使用することによってドームの重量を減じることができた。ネロ帝の黄金宮やカラカラ浴場では八角形平面の上にドームをのせている。

 ドーム構造の次の段階は、ビザンティンの建築家たちがペンデンティブ(逆三角形の球面によるドーム支持部分)を導入したことによってもたらされた。これによって正方形平面の上にドームを頂くことが可能になった。もっとも大きなビザンティンのドームはコンスタンティノープルのハギア・ソフィアのものである。バシリカ平面の上に、ペンデンティブの巧みな使用によって直径約33メートルのドームをのせたものであるが、ドーム下部の窓列などによって軽やかにみえる。それは天球や宇宙の象徴というにふさわしい。実際、ビザンティンの建築家はドームを好んで使用した。円筒形をしたドラムの上にドームを構築する手法を開発したのも彼らである。ベネチアのサン・マルコ大聖堂パドバの聖アントニオの聖堂などもそうした例であり、アルメニアバルカン半島、ロシアなどにその伝統が認められる。

 イスラム建築もドームを多用した。そこにはビザンティン建築の濃厚な影が認められ、小規模なものが多いとはいえ、横断アーチやスタラクタイト(天井装飾手法)などによって装飾性豊かなドームや半ドームを好んで築いた。インドのイスラム建築タージ・マハル(17世紀前半)はその好例である。さらにルネサンス以後の建築家たちは、新たな彫刻的形態で象徴的な意味を込めてドームを築いた。バチカンサン・ピエトロ大聖堂のドームはその代表である。

[長尾重武]



ドーム(地層)
どーむ
dome

隆起もしくは背斜構造の地層のうち、外形がおおむね球あるいは楕円(だえん)体の一部に近いものをいう。地層は中心部から外側に向かって傾斜している。可塑性を増した地下の岩塩層が浮力によって上昇するとき、岩塩層の上にある地層が上方に凸形に変形する。これは岩塩ドームとよばれ、ドーム状構造の一例である。また、ほぼ直交した2方向の褶曲(しゅうきょく)が重なる場合、背斜と背斜が重なる部分ではドームが形成される。

[伊藤谷生・村田明広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドーム」の意味・わかりやすい解説

ドーム
dome

クーポラ,円蓋ともいう。円形,方形または多角形の平面の上にかけられる基部を円形とする上方にふくれあがった屋根あるいは天井。石または煉瓦造で造られるが,その取付部に水平方向に広がる力が働くため,大規模なものでは支持体の壁厚を大きくするか,ゴシック建築にみられるように,バットレスあるいはフライング・バットレスを用いてこの力を吸収しなければならない。ドームは屋根面の架構法として組積造を行う地域で古くから広く用いられてきたが,円形のもつ求心的完結性と半球面が示す小宇宙的な象徴性のために,特にキリスト教建築においては多用され,独特の展開をみた。一般的には方形の平面の上にかけられるため,これをドーム基部の円形に移行させるための方法が工夫されている。ペンデンティブは四隅に球面三角形を配するものであり,スキンチは隅部にアーチ状の迫 (せり) 出しを重ねて円形に近い平面を得ようとするものである。なおドーム部分の下にはめ込まれる円筒状の部分はタンブールと呼ばれる。ドームは構造上の必要および美的な配慮から二重殼として造られることも多く,F.ブルネレスキによるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームはその例である。また多数の石材または木材の梁を用いて多角形に組みながらドーム状に建上げていく方法もあり,中国などにその伝統がある。

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