日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィゾーの実験」の意味・わかりやすい解説
フィゾーの実験
ふぃぞーのじっけん
フランスの物理学者フィゾーが行った光速度の絶対値の測定実験。
空気中での光速
フィゾーは、天体現象によらずに地上での実験で、初めて光速の測定に成功した(1849)。その装置を に示す。一様な速さで回転する歯車の溝を通して、光源から出た光を送り出す。回転速度を増していくと、鏡で反射されて帰ってきた光が、歯車の歯で遮られて望遠鏡に入らなくなる。そのとき、歯車の回転数をn回/秒、歯の数N(ただし、歯と溝の幅は等しいとする)、歯車から反射鏡までの距離をLメートルとすると、光速cは、c=4NLn(m/秒)で与えられる。フィゾーがパリ郊外で行った実験では、n=12.6/秒、N=720、L=8633mであり、これからc=3.133×108m/秒が得られた。その後、フィゾーと初め共同研究をしていて、のちに別れたフーコーは、改良した装置を用いてさらによい値を得た(1850)。
[藤井寛治]
流水中での光速(フィゾーの干渉実験)
運動する透明物体中での光速を実験で決めることは、19世紀前半における光の弾性波動論での重要な課題であった。空気中での光速測定のあとフィゾーは、 に示したように、高速の流水に光を通して、光の媒質と想定されていた光エーテルと物体の相対運動に関し初めての実験をした。光源から出た光はGで分かれて光線a、bとなり、流水中を通り鏡で反射されたあと、ふたたび流水中を通り最後にTに達する。光線aはつねに水の流れに沿い、bはその逆であるので、Tに着くまでの時間のずれが生じ、Tで干渉縞(かんしょうじま)が観測される。
フィゾーは実験式として、速さvで流れる水の中の光速V=c/n±(1-1/n2)vを得た(nは水の屈折率、複号±は、それぞれ光線a、bに対応)。実験式右辺第1項は、静止した水の中での光速であるので、この結果は、流水中でエーテルが引きずられて速さ(1-1/n2)vで動くことを示している。そのため、光エーテルが物体とともに移動するという完全随伴仮説も、静止エーテルが物体の運動に影響されず物体中を通過するという仮説も正しくなく、フランスの物理学者フレネルの部分随伴仮説が正しいことが示されたと考えられた。しかし、光エーテルについてのいくつかの実験結果が互いに矛盾することが明らかになり、若き理論物理学者アインシュタインは、1905年に特殊相対性理論を提出し、エーテル概念に基づかないで一貫した理解ができることを示した。フィゾーの流水実験結果は、相対論での速度合成の結果として導出できる。水が静止している座標系S'での光速c/nと、観測者の静止系Sに対するS'の速さ±vとを合成して、静止系Sでの流水中の光速Vを求めると、v/c≪1の近似で、
のようにフィゾーの実験式が得られる。
[藤井寛治]