ペンタゴン・ペーパーズ暴露事件(読み)ぺんたごんぺーぱーずばくろじけん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ペンタゴン・ペーパーズ暴露事件
ぺんたごんぺーぱーずばくろじけん

公式には『合衆国ベトナム関係、1945~67年』と題されるアメリカ国防総省機密文書が1971年6月アメリカ新聞紙上で暴露された事件。ベトナム戦争が拡大し泥沼化するに伴い、66年ころから国防長官マクナマラをはじめ戦争立案者の間で疑問が生まれ始め、マクナマラは同年、米政府が将来二度と同じ失敗を繰り返さぬ教訓とするため、できるだけ客観的な戦争の分析記録をつくるように命じた。執筆者の多くは政策に携わって失敗を認めた学者グループであったが、途中で何度も執筆者がかわり、未完成に終わった。71年3月ころ、ケネディ政権に参画しベトナムにも駐在した経験をもつダニエルエルズバーグが、反戦運動に役だたせる目的でペーパーズの膨大なコピーを『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』などに暴露させようと持ち込み、両紙は熟慮のすえ6月になってその一部を印刷して公表、ニクソン政権は両紙その他の新聞を告訴して、記事を差し止めようとしたが敗訴した(71年6月29日最高裁決定)。その結果、政府印刷局(GPO)は全12巻を公刊しなければならなくなった。ペンタゴン・ペーパーズの暴露は、確かに燃え上がる当時のベトナム反戦運動をアメリカ内外で大いに励ました。GPO版の公刊前にグラベル上院議員が上院で上院記録に入れた分を印刷した全四巻、ニューヨーク・タイムズ版全一巻などがある。

陸井三郎

『ニューヨーク・タイムズ編、杉辺利英訳『ベトナム秘密報告――米国防総省の歴史的記録』(1972・サイマル出版会)』

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