ダニエル(読み)だにえる(英語表記)Samuel Daniel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダニエル」の意味・わかりやすい解説

ダニエル(John Frederic Daniell)
だにえる
John Frederic Daniell
(1790―1845)

イギリスの化学者。1813年王立協会会員、1831年キングズ・カレッジ化学教授。1836年ボルタ電池を改良し、最初の実用的な二液式電池であるダニエル電池発明した。その後ミラーと共同で、電解槽中隔膜によって分離された両電解質溶液の濃度をそれぞれ測定する実験から、1844年に正・負イオンの移動する能力に違いがあることを確かめ、それを説明するために上下二つの正・負イオンの列が互いに半当量ずつずれていくという電気分解機構に関するモデルを提唱した。これはその後の電気化学研究、自由イオン説への理論的出発点をしるすものであった。露点温度計の発明もある。

[宮下晋吉]


ダニエル(旧約聖書)
だにえる
Daniel

旧約聖書』の「ダニエル書」の主人公。ダニエルは、ヘブライ語で「神はわが審判者」の意味。ユダ貴族の家に生まれ、エホヤキム王第3年の最初の捕囚のときバビロニアに移されるが、異教の権力と圧迫に抗して敢然と戦い、終始祖国イスラエルの回復を期待し続けた。とくに、終末的な神の国の勝利を幻に描き出し、神の支配の実現と悪(あ)しき権力の破滅を人々に預言した。旧約黙示文学傑作に数えられるが、はたして「ダニエル書」のいうとおり、ダニエルが実在の人物であるかどうかは不明である。むしろ、古代イスラエルに残る伝承を用いて、黙示文学としての目的に沿って創作された人物とみるのが正しい。

[山形孝夫]


ダニエル(Yuriy Markovich Daniel')
だにえる
Юрий Маркович Даниэль/Yuriy Markovich Daniel'
(1925―1988)

ソ連の小説家、翻訳家。イディッシュ語で書くユダヤ人作家の息子として生まれ、対独戦に従軍、負傷モスクワ師範学校卒業後一時教員生活、のち詩の翻訳に専念。『こちらはモスクワです』(1961)、『贖罪(しょくざい)』(1963)などの短編シニャフスキーと同じルートで西欧へ流しニコライ・アルジャクの筆名で発表。1965年シニャフスキーとともに逮捕され、翌年5年の重労働に処される。公判では罪の一部を認めたが獄中でこれを撤回した。88年12月30日死去。

[青山太郎]

『内村剛介編、染谷茂訳『現代ロシヤ抵抗文集第2 こちらはモスクワです』(1970・勁草書房)』


ダニエル(Samuel Daniel)
だにえる
Samuel Daniel
(1562―1619)

イギリスの詩人。オックスフォード大学中退後、詩作により貴族諸家の庇護(ひご)を得て生計をたてた。宮廷の職についたこともある。物語詩『ロザモンドの訴え』(1592)、セネカ風の悲劇『クレオパトラ』(1594)、詩人の使命を説いた対話詩『ムゾフィラス(愛詩家)』(1599)、愛国的な叙事詩『内乱』(1595~1609)などを書いたが、フランスの詩人デポルトを模したソネット集『ディーリア』(1592)が代表作。内容は常套(じょうとう)的であるが、流麗な表現が美しい。ほかに詩論『韻の弁護』(1603)など。

[藤井治彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダニエル」の意味・わかりやすい解説

ダニエル
Daniel, Samuel

[生]1562. サマセット,トーントン近郊
[没]1619.10.14. ウィルトシャー,ベッキントン
イギリスの詩人,劇作家。オックスフォード大学卒業後,一時ペンブルック伯 W.ハーバートの家庭教師となり,その母メアリーの文学サークルに加わった。彼女に捧げたソネット集『デリア』 Delia (1592) は E.スペンサーに称賛された。またセネカ風の悲劇『クレオパトラ』 Cleopatra (94) ,バラ戦争を扱った長編叙事詩『ランカスター家とヨーク家によって起された内乱』 The Civil Wars Between Two Houses of Lancaster and York (95~1609) ,学問擁護の対話詩『ムソフィラス』 Musophilus (1599) を書き,『韻の弁護』 Defence of Ryme (1603) では英語固有の押韻を擁護して,古典語の韻律を唱道した T.キャンピオンに反論した。ほかに,悲劇『フィロタス』 Philotas (05) や宮廷用の仮面劇,牧歌劇がある。

ダニエル
Daniell, John Frederic

[生]1790.3.12. ロンドン
[没]1845.3.13. ロンドン
イギリスの化学者,気象学者。正規の学校教育は受けなかったが,早くから才能を認められ,1813年に 23歳でロイヤル・ソサエティ会員となった。 31年より,新設のロンドンのキングズ・カレッジ化学教授。 20年には露点計を,32年には高温計を考案した。友人 M.ファラデーの影響で電気化学に興味をもち,36年ボルタ電池を改良して,長時間にわたって一定の強さの電流を供給できるダニエル電池を完成した。これらの功績により,32年ランフォード・メダル,37年コプリー・メダルを受章した。

ダニエル
Daniel, Yuly; Daniel, Yulii Markovich

[生]1925.11.15. モスクワ
[没]1988.12.30. モスクワ
ソ連の作家,翻訳家。現体制を風刺する評論を,Nikolai Alzhakの筆名を用いて国外で発表。 1965年 A.シニャフスキーとともに逮捕され,66年裁判にかけられ5年の強制労働を宣告されたが,この事件に対し国の内外から盛んな抗議行動が起った。主著は小説『こちらはモスクワです』 Govorit Moskva (1966) ,『社会主義陣営からの通信』 (71) 。

ダニエル
Daniel, Gabriel

[生]1649.2.8. ルーアン
[没]1728.6.23. パリ
フランスの歴史家。イエズス会士。デカルトやパスカルを論難。精密な考証で知られ,『フランス王国史』 Histoire de France depuis l'établissement de la monarchie française (1713) ,『フランス軍隊史』 Histoire de la milice française (21) その他の著書がある。

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