翻訳|microfilm
文書,図面などを縮小撮影して保存するための写真フィルム。普仏戦争の際に用いられたのが最初といわれるが,本格的な利用は1928年アメリカで小切手撮影用のロータリー式カメラが開発されて以降であり,文献複写,保管スペースの節約,転記の合理化,情報検索など利用方法が発展してきている。現代の情報化社会においてマイクロフィルムの果たしている役割は大きく,撮影用カメラ,情報の検索・抽出装置と有機的に組み合わされて,一つのシステム,マイクロシステムを構成している。数値化情報を扱うコンピューターに対し,非数値化情報を処理する主役がマイクロシステムであり,(1)オリジナル情報を1/100~1/1000に圧縮するため,大量情報の小スペース蓄積が可能となり,保管・輸送コストが低減できる,(2)数十年から数百年の長期保存が可能,(3)高解像システムのため高品質な記録が可能であり,また面露光方式の入力のため正確で迅速な記録が可能,(4)縮小情報のため複製が簡単・経済的でかつ配布も容易,などの特徴をもつ。
マイクロフィルムは情報の種類,大小,単位,利用方法などにより種々の形態(マイクロフォームという)で使用されるが,代表的なものとして以下のようなものがある。
(1)ロールフィルム 16mm,35mm幅で30.5m長が1巻になっているものが一般であるが,近年薄手ベース使用の60.5m長のものも現れている。1巻に35mmで約700コマ,16mmで1600コマ収容できる。保管容積が最小で資料散逸も少ない。また改訂が困難なため法的証拠能力に優れているという利点をもつが,これは反面,資料の追加訂正が困難であるという欠点にもなり,また目的コマ抽出に時間を要するため,主として保存中心の資料に利用される。
(2)カートリッジ 16mmロールフィルムをカセットに収容したもの。リーダー,リーダープリンター利用時に装てんが容易で機械検索も可能である。主として特許,マニュアル,カタログなどの情報に利用される。
(3)マイクロジャケット ロールフィルムをある長さで切断して(これをストリップスという)透明な袋状シートに数本差し込んだもので,上部にタイトル記入用の余白を有している。撮影が簡単でジャケット単位(60コマ程度)で整理でき,かつストリップス単位での差替えが可能。技術資料,特許資料,営業資料などの小規模マイクロシステムに利用される。
(4)マイクロフィッシュmicrofiche 碁盤の目のように縦横に並んだ数十から数百コマのマイクロ画像をもつシート状のフィルム。上部にはタイトル部がある。105mm×148mmサイズが標準,収容コマは60,98,208,270コマなどがある。数十~数百コマのシート単位で情報が扱え,資料追加,差替えも可能なため,研究報告,文献,パーツリスト,マニュアルなどの資料管理に使われている。
(5)アパーチュアカードaperture card コンピューター用データカードに穴をあけ,その開口部にフィルムを添付したもので,カード部分にフィルムの内容が記載できる。1資料-1カードで整理ができ,分類,抽出,配布などが容易であり,またデータ記入はPCSシステムが利用できる。利用分野は1品1葉で扱われる図面関係が圧倒的に多い。
マイクロシステムは,オリジナル情報→マイクロフィルム化→加工→保管→利用というステップで構成され,これらの各ステップで用いられる機器が整備されている。
(1)マイクロカメラ マイクロ写真を撮影するためのカメラで,情報の種類と利用目的に合わせ各種のものがあり,自動現像機と一体化されたカメラプロセッサーも現れている。その一般的特徴は高い解像力,均一人工照明,自動露光,自動焦点,100万コマ程度の耐久性である。(a)平床式カメラ オリジナル情報を光軸と直角におき,静止した状態で撮影するカメラで,高品質のマイクロ画像が得られる。16mmの一般カメラや35mm図面用大型カメラ,文書用の逆平床式カメラ,タイプライターと同様な動きをすることによって1コマずつ撮影していくフィッシュカメラ(ステップアンドリピートカメラ)などがある。(b)ロータリー(輪転式)カメラ オリジナル情報とフィルムを縮率比で同期させ,逆方向に移動させながら撮影していくカメラ。撮影速度が数百枚/minと速いことが特徴で,小切手,手形,証券など大量情報を高速で記録する分野で使われている。(c)COM(コム) computer output microfilmerの略。コンピューターからの大量のデータや情報を高速度でマイクロフィルム上に画像情報として出力する装置。ペーパー出力のラインプリンターに比較し,数倍のスピードを有し,また出力がマイクロ写真であるため,配布が容易,などの特徴ももっている。ドライ感材を使用したCOMも普及しつつある。
(2)プロセッサー(現像機) マイクロフィルムは自動現像機によって現像され,長期保存適性を有し,均一で解像性高いフィルムに仕上げられる。近年ではカメラとプロセッサーが一体化した装置も普及してきており,ロータリーカメラプロセッサーをはじめとする各タイプが実用化されている。
(3)リーダー,リーダープリンター リーダーは,マイクロ画像情報を拡大投影して肉眼で読む装置で,構造的に透過式と反射式がある。また利用するマイクロフィルムの形態に合わせフィッシュ,ロールなど各タイプがある。リーダープリンターは拡大されたスクリーン上の画像を即座にハードコピーとして得るための装置で,プリント方式として電子写真,間接式複写,感熱複写などの各方式がある。
また,リーダー,リーダープリンターともに目的コマを手動で抽出するマニュアルタイプと,自動で行う自動検索タイプがあり,後者には単純な機械検索から,コンピューターと連動して高度な情報検索を行うシステムまで幅広い製品が用意されている。
(4)マイクロ感材 マイクロシステム利用の各ステップの目的に合わせ,撮影用のカメラフィルム,複製用のデュープフィルム,復元用のハードコピーが用意されており,さらに細かい目的に合わせ各種のタイプがある。カメラフィルムは微細画像の再現に重点がおかれており,一般カメラ感材のような中間調の正しい再現よりむしろ白黒の明確な分離が主眼となっている。解像力も630本/mm程度と高い。現像処理はユーザーサイドでの迅速簡易処理が求められ,仕上り品質は長期保存性能が必要である。銀塩感材がおもに用いられているが,簡易処理,ドライ処理のための蒸着感材,ドライシルバー感材も使用され始めている。
デュープフィルムは銀塩プリントフィルム,ジアゾフィルム,ベジキュラーフィルムに大別される。銀塩プリントフィルムは長期保存性,再現性に優れている。ジアゾフィルムはジアゾ化合物とカプラーを透明なフィルムベース上に塗布したもので,解像力,ドライ処理,安価などの特徴を有し,短期保存主体の活用フィルムとして利用される。ベジキュラーフィルム(気泡写真フィルム)はジアゾ化合物を可塑性樹脂の中に分散させ,透明な支持体上に塗布したもので,プリント時の露光でジアゾ化合物が分解して生じた微細な窒素ガスが加熱により膨張して気泡となり,これを投影した場合,気泡部に光の散乱が起こり,写真像を形成する。
執筆者:高橋 通彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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