写真フィルム(読み)しゃしんふぃるむ(英語表記)photographic film

日本大百科全書(ニッポニカ) 「写真フィルム」の意味・わかりやすい解説

写真フィルム
しゃしんふぃるむ
photographic film

写真感光材料の一種で、透明な薄い膜状のもの(フィルム)を支持体として、その上に写真乳剤層を塗り、現像された画像を透過光で観察しうる構造のものをいう。インスタント写真では現像材を含む感光材料のことをフィルムとよんでいる。支持体には一時セルロイドを使用した時代もあったが、現在はトリアセテートポリエステルが使用されている。またプリントして写真をつくることを目的とするネガタイプと、直接スライドなどをつくるポジタイプリバーサルタイプ、反転タイプ)があり、前者は現像によって被写体と逆の明暗が得られるもの、後者は被写体と同じ明暗になるものをいう。そのほか黒白フィルム(モノクロームフィルム)とカラーフィルム、ロールフィルムに対するシートフィルムなどに分類される。ロールフィルムは複数こま分のフィルムが1本の芯(しん)に巻いてあるものをいい、35ミリメートル幅で両側に等間隔の穴をもつ35ミリサイズ、24ミリメートル幅のAPSサイズ、61.5ミリメートル幅のブローニーサイズなどがある。シートフィルムは昔のガラスを支持体とする乾板にかわるものであるが、1こま分を1枚ずつシート状のフィルムにしたもので、現在は主として4インチ×5インチ、5インチ×7インチなど大型サイズのカメラに用いられている。

[伊藤詩唱]

黒白フィルム

黒白写真をプリントするための原板(ネガ)をつくるフィルムで、ほとんどは黒白ネガタイプである。

[伊藤詩唱]

構造

ベースとなるフィルム上に、乳剤とベースの接着性をよくするための下引(したびき)剤、感光乳剤、乳剤を保護するゼラチンの順に塗布し、裏面には、フィルムの巻きぐせ(カーリング)をとり平面性をよくするためと、ハレーション(フィルム裏面からの乱反射)を防止するために、色素を混ぜたゼラチンを塗ってあるのが普通である。一般用のフィルムでは、性能をよくするため感光乳剤層を2層にし、下側に低感度乳剤、上側に高感度乳剤を塗布した重層構造を採用しているものが多いが、ベースの両面に厚く乳剤を塗布したX線用フィルムなど特殊な構造となっているものもある。

[伊藤詩唱]

用途

フィルムの構造や、乳剤そのものの性質を、それぞれの用途にもっとも適するように設計した多種類のフィルムがつくられ、広範な用途に供されている。紫外線用、一般写真用、複写用、製版用、赤外線用、放射線用、天文写真用などがある。

[伊藤詩唱]

一般的性質

フィルムには感度、感光性(感色性)、コントラストその他の性質があり、これらを組み合わせて用途に適した特色をもたせている。どのくらい露光すればよいかを示す度合いを感度といい、一般撮影用フィルムはISO(イソ)感度で表示されている。感度は数値の大きいほうが高く、より小さい絞りとより速いシャッター速度を使用して撮影することができる。

 乳剤がどんな波長の光に対してどのような感じ方をするかということを感光性または感色性とよぶ。ハロゲン化銀本来の感光性は紫外部から青色光までで、最良のヨウ臭化銀でも約350ナノメートルから約520ナノメートル(青色光)までである。この色盲のハロゲン化銀に感光色素と称する物質を添加すると、より長波長の光、すなわち緑色光や赤色光に感ずるようになり、感光色素の種類によっては赤外線に感光する乳剤をつくることができる。この赤外線に感光性をもつフィルムをとくに赤外フィルムとよぶ。一般撮影用フィルムのほとんどは、赤色光までの可視光全域に感光する性質をもつパンクロマチック(略してパンクロ)とよばれるタイプであるが、緑色光まで感じるものをオルソタイプ、青色光や紫外線にしか感光性をもたないものをレギュラータイプと称する。

 画像の明暗の対比の度合いをコントラストといい、一般撮影用では、肉眼で見たとおりのコントラストに再現されるようにつくられているが、現像時間の長短によってある程度変化させることができる。とくにこの性質を強めたフィルムに、複写用のマイクロフィルムや製版用フィルムなどがある。

 どのくらい細かいものを写す能力があるかということを解像力といい、等間隔な黒白の条線のうち、見分け可能な黒白の1対の最小幅(ミリメートル)の逆数で表され、数値の大きいほうが能力が大きいことを示す。一般的には高感度のフィルムのほうが能力が小さい。

 被写体を同じ感じに再現できる露光の許容される範囲をラチチュードという。この性質の広いフィルムのほうが、露光の過不足に対する許容範囲が広く使いやすいが、一般にコントラストの高いもののほうがこの性質が小さい。分光写真や天文写真など明暗比の非常に大きい被写体用のフィルムは、とくにこの性質の広いものが要求されるので、3種の乳剤を3層に塗布したエクステンデッド・レンジ・フィルムとよばれるものが使用されている。

 ネガを構成する銀粒子の疎密の感じを粒(りゅう)状という。一般に、より低感度フィルムのほうが銀粒子が小さいので粒状性も良好である。

[伊藤詩唱]

フィルムの上手な使用法

フィルムを上手に使うということは、その性能を十分に生かすことである。その基本は、戸外の人物や風景など一般的な撮影にはISO100ぐらいの中感度フィルム、大きなサイズに引き伸ばすことを前提とする場合は、解像力が高く粒状性のよいISO40前後の低感度フィルム、室内など光量が十分でない所やスポーツなど高速シャッターを必要とするときは、ISO400以上の高感度フィルムを選択するのが第一条件である。次にカメラや露出計の感度を正しくセットし、適切な露光を与え、最適な現像をすることが、よいネガをつくるこつである。

[伊藤詩唱]

カラーフィルム

カラー写真をつくるためのフィルムで、スライドや印刷原稿のもととなるポジカラーフィルム用のカラーリバーサルフィルムと、プリント用のカラーネガをつくるカラーネガチブフィルム(一般には、ネガカラーフィルム)とがある。いずれも減色法の三原色によって発色させるために、1枚のフィルムの上に、シアン、マゼンタ、イエローに発色する3種の乳剤層およびフィルター層、ならびに保護層や下引層などをもつ12層にも及ぶ多層乳剤である。一般的性質は、黒白フィルムとほぼ同じであるが、感光性だけはすべてのフィルムが可視光全域に感じる。しかしその感じ方の違いによって、デーライト用とタングステン光用とに分類され、撮影光源が指定されている。しかしネガカラーフィルムのなかには、露光時間によって短時間用(主としてデーライト用)、長時間用(主としてタングステン光用)とに分けられているものもある。35ミリのネガカラーフィルムはユニバーサルタイプとよばれ、デーライト光にもタングステン光にも使用できる。そのほか、ほとんどのフィルムがカプラー(発色剤)を乳剤自身のなかにもつ内(うち)型フィルムであるが、まれにカプラーが現像液中にある外(そと)型フィルムもある。

 使い方の基本は黒白フィルムと同じであるが、前述のように光源や露光時間によりフィルムを選択しなければならない。なおネガカラーを撮影するときは、カラーリバーサルフィルムを同時に写しておき、このスライドを色見本としてプリントすると、色彩のよい写真をつくることができる。

 カラーフィルムの乳剤の1層を赤外光に感ずるように変更し、赤外光による像を色画像として記録させるようにしたものを赤外カラーフィルムといい、植物分布の遠隔調査などに使用されている。

[伊藤詩唱]

『リーズ・V・ジェンキンズ著、中岡哲郎訳『フィルムとカメラの世界史――技術革新と企業』(1998・平凡社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「写真フィルム」の意味・わかりやすい解説

写真フィルム
しゃしんフィルム
photographic film

写真感光材料の一つ。難燃性のトリアセテートまたはポリエステルなどを支持体として,主としてハロゲン化銀とゼラチンから成る写真乳剤を塗布,乾燥したもので,透明な写真画像をつくるのに使う。カラーと黒白 (モノクロ) に大別され,さらに用途によって一般,映画,写真製版,航空,X線用などに分けられる。また写真特性上から標準,微粒子,高感度,低感度,軟調,硬調などに,感色性から非整色 (レギュラー) ,整色 (オルソクロマチック) ,全整色 (パンクロマチック) ,赤外線用などに分類される。さらに形状から 35ミリ判,ブローニー判などのロールタイプ,名刺判以上のパック・フィルムまたはシート・フィルムなど各種に分れる。 1884年アメリカのカーバットが初めて実用性のあるシート・フィルムをつくり,89年アメリカの G.イーストマンが初めて透明ロールフィルムを市場に出した。 T.エジソンが近代式映画撮影用カメラを発明したのもこの年で,イーストマンのフィルムが使われた。

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