改訂新版 世界大百科事典 「マングローブ林」の意味・わかりやすい解説
マングローブ林 (マングローブりん)
mangrove thicket
紅樹林ともいう。熱帯の川口付近で潮の干満の影響を受けるところに生じる特殊な植生で,日本でも琉球諸島の各地に発達しているほか,鹿児島県喜入(きいれ)に北限地がある。ヒルギ科の植物が主相となり,構成種数は多いところでも30種程度であるが,そのほとんどはマングローブ林に固有のものである。潮の影響を受ける泥地に生えるので耐塩性が強く,気根などに特殊な構造が発達している。ヒルギ科などでは果実が母植物についたままで1m以上にも伸長し,着地してから定着・発芽がすぐにできる準備が整っていることから,胎生の植物などといわれることもある。代表的な構成種には,オヒルギ,メヒルギ,ヤエヤマヒルギ,ハマザクロ,ニッパヤシ,ミミモチシダなどがあるが,広域に分布するものが多く,種の弁別が地域によって統一されていないことが多い。純粋に潮をかぶる場所に典型的なマングローブ林が形成されるが,陸地に向かうにつれてしだいに普通の植生に置き換わる。マングローブ林の樹木が用材,木材原料,チップ原料などに直接利用されるほか,マングローブ林は水産資源の重要な生産場所となっていることから,熱帯地方の諸国ではこの特殊な植生の保護に関心が払われている。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報