日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルギ」の意味・わかりやすい解説
ヒルギ
ひるぎ
ヒルギ科(APG分類:ヒルギ科)Rhizophoraceaeの植物の総称名。ヒルギ科は双子葉植物、離弁花類。常緑高木または低木。おもに砂泥の堆積(たいせき)が著しい海岸湿地、河口や感潮域の河岸などに生える。熱帯を中心に17属約100種あり、マングローブ(紅樹林(こうじゅりん))の主要構成種となる。アジアでは日本が分布の北限で、日本には九州南部にメヒルギKandelia obovata Sheue, H.Y.Liu et W.H.Yong〔K. candel (L.) Druce〕、オヒルギ(別名ベニガクヒルギ)Bruguiera gymnorhiza (L.) Lamk.およびヤエヤマヒルギ(別名オオバヒルギ)Rhizophora stylosa Griff.の3属3種が生育し、西表(いりおもて)島で日本最大の紅樹林を形成する。この3属に共通する特徴は、葉は対生し、単葉で厚い革質、早落性の托葉(たくよう)がある。花序は葉腋(ようえき)につき、花は両性。果実は裂開せず、種子は1まれに2個。種子は母樹についたまま発根し、果皮を突き破って10センチメートル以上に伸長する、いわゆる胎生種子である。胎生種子は落下して泥に幼根を突き刺すが、定着するのはまれで、多くは潮の干満で適当な場所に漂着し、横倒しのまま側根を伸ばして胚軸(はいじく)をしだいに直立させる。カニが巣穴に引きずり込んだものが定着することもある。海流による遠距離散布の可能性があるが、漂着しても、その地域の冬の気温で生育は制限される。ここにあげた3種ともに生育できるのは沖縄島までで、北上して奄美(あまみ)大島ではメヒルギとオヒルギ、種子島(たねがしま)、屋久島(やくしま)に至るとメヒルギだけになり、北限は鹿児島市である。
成木となった3種の違いは、干潮時に露出する根の形態に著しい。メヒルギは幹基部の周りに高さ約30センチメートルの板根(ばんこん)を形成する。オヒルギは、砂泥中を横走する側根が局所的に屈曲して地上に露出し、その部分が上方に偏心肥大して膝(ひざ)状になるので屈曲膝根(しっこん)という。ヤエヤマヒルギでは、幹の周りまたは枝から斜めに不定根を泥中に伸ばし、タコ足状の支柱根となる。これらの根の形態は、それぞれ酸欠状態の砂泥地に適応し、呼吸根の機能をもつという。生育する微環境にも差異がみられ、メヒルギとヤエヤマヒルギは流路沿いの水辺寄りに、オヒルギは内陸側に生える傾向がある。防潮、護岸効果がある。材はいずれも堅くて杭(くい)材によく、良質の木炭となり、樹皮からはタンニンをとる。
ヒルギの名は、漂木の意味で、果実が漂着して生育するからといわれる。また幼根の形がヒルに似るので蛭木(ひるぎ)とする説もある。オヒルギは種子の形が大きいことにより、メヒルギは種子が小さいことに由来する。
[島袋敬一 2020年6月23日]