日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミクロラプトル」の意味・わかりやすい解説
ミクロラプトル
みくろらぷとる
[学] Microraptor gui
竜盤目獣脚類(亜目)テタヌラ類(下目)コエルロサウルス類Coelurosauriaマニラプトル形類Maniraptoriformesマニラプトル類Maniraptoraエウマニラプトル類Eumaniraptoraドロマエオサウルス科Dromaeosauridaeに属する恐竜。属名の由来は「小さな略奪者」。中国遼寧(りょうねい)省の白亜紀前期、約1億2700万年前の地層、熱河層群(ねっかそうぐん)(熱河生物群)から産出している。
命名規約上2種以上が認められており、種名が与えられているのは、ミクロラプトル・チャオイアヌスM. zhaoianus(全長約40センチメートル)とミクロラプトル・グイM. gui(全長77センチメートル)である。
現在知られている羽毛恐竜のなかでもとくに珍しい存在である。というのは、前肢にも後肢にも、風切羽(かざきりばね)が翼状に発達しているからである。とくに足の甲の羽毛は長い。風切羽は羽軸(うじく)の前後の幅が非対称な形をしており、第1指の羽毛(小翼)は翼の形を微調整できたと考えられ、全体として飛行のために都合のよい構造をもつ。グイの後肢の長い羽毛は地上を走るにはぐあいが悪かったであろう。むしろ、前・後肢に翼をもつ構造は、ミクロラプトルが樹上性でムササビのように滑空した可能性がある。前肢の翼を使って羽ばたき、飛ぶこともある程度はできたのであろう。四肢のつめは、鋭く湾曲しているが、これも樹上生活への適応であろう。胸骨が非常に大きく、肋骨(ろっこつ)には比較的進化した鳥類だけにみられる鉤(かぎ)状突起が7対もある。
後肢を横方向に水平に伸ばして滑空する想像図が描かれることもあるが、股(こ)関節をそんなに開けたかどうか疑問に付する向きもある。いずれにしろ、前肢・後肢が同じ長さで、しっぽの椎骨(ついこつ)の数が少ないことなどは始祖鳥に近い。尾に備わった大きな羽毛は、飛行時の舵(かじ)取りや、樹上でバランスをとるときにも役だったであろう。後肢に翼をもつ動物は、獣脚類のペドペンナPedopennaや鳥類のエナンティオルニス類でも確認されている。
ミクロラプトルのなかには、グイよりも大きく全長77.5センチメートルもあり、頸(くび)がやや短く、頭骨や歯が大きめで、尾にびっしりと腱(けん)が発達し強靭(きょうじん)な構造で付け根でのみ曲げることができたと判明した標本もある。前肢の第2、第3指がグイよりも短かいため、飛行能力で劣っていたのかもしれない。
[小畠郁生]
『長谷川善和・董枝明・徐星総合監修・執筆「驚異の大恐竜博 起源と進化――恐竜を科学する」(カタログ。2004・日本経済新聞社、テレビ東京、日経ナショナルジオグラフィック社)』▽『真鍋真監修、朝日新聞社事業本部編「恐竜博2005 恐竜から鳥への進化」(カタログ。2005・朝日新聞社)』