ギリシア神話の怪物。ゼウスの子ミノスが政敵の反対を押さえてクレタの王となるとき、ミノスは神とのつながりを誇示するために、犠牲の牛を海から出現させてくださいとポセイドンに祈る。神は白い牡牛(おうし)を送るが、ミノスはこの美しい牛を犠牲にするのが惜しくなり、隠してしまう。怒ったポセイドンは罰として、ミノスの妃(きさき)パシファエをこの牡牛への邪恋に狂わせる。工匠ダイダロスに精巧な牝牛(めうし)の模像をつくらせた王妃は、それに忍んで牡牛と交わり、牛頭人身の怪物ミノタウロス(ミノスの牛の意)を産む。ミノスは、この怪物をダイダロスのつくった迷宮ラビリントスに閉じ込め、属国のアテナイ(アテネ)から送られてくる人身御供(ひとみごくう)の少年少女を食わせて養った。しかし、やがて人身御供のなかに紛れ込んだアテナイの王子テセウスにより退治される。クレタでは神的な王が牛の姿で王妃と神聖婚の儀式を行ったことから、このような神話が生まれたかとも考えられている。
[中務哲郎]
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…弟子にした甥が師をしのがんばかりの技量を示したため,これをアクロポリスから突き落として殺し,クレタ島の王ミノスのもとに逃れた。ここで彼は海神ポセイドンの雄牛に恋した王妃パシファエのために木製の雌牛を作ってやり,彼女が人身牛頭のミノタウロスを生むと,この怪物を入れておく迷宮ラビュリントスを造った。その後,アテナイの王子テセウスが怪物退治にやってきたときには,テセウスに恋した王女アリアドネに,王子が迷宮内で道に迷わぬための糸球の策を授けた。…
…たとえばおうし座は一説によれば,フェニキアの王女エウロペをゼウスの愛人にするために背に乗せて海を渡り,クレタ島まで運んだ牛が天にあげられたものだが,別の伝承によれば,クレタ王ミノスの祈りにこたえて,海神ポセイドンが海から出現させた牛である。ミノスの妃パシファエがこの牛に恋し,名工ダイダロスにつくらせた本物そっくりの牝牛の模型の中に入って,その牛の種を受けて半牛半人の怪物ミノタウロスを生んだという。そのあとこの牛は英雄テセウスによって殺され,星座になった。…
…妃パシファエPasiphaēとの間にアリアドネAriadnē,ファイドラPhaidra,アンドロゲオスAndrogeōsらをもうけた。海神ポセイドンに祈って雄牛を海中から出現させてもらったお蔭で王位につけたにもかかわらず,約束に反してその牛を海神に捧げなかったため,海神はパシファエが雄牛に恋するように仕向け,その交わりから人身牛頭の怪物ミノタウロスが生まれた。彼はこの怪物を名匠ダイダロスに造らせた迷宮ラビュリントスに閉じ込め,息子アンドロゲオス殺害の償いとして毎年アテナイから送られる14人の少年少女を餌に与えていたが,怪物はやがてアテナイの王子テセウスに退治され,またダイダロスは人工の翼によって空からクレタ島を脱出したので,そのあとを追ってシチリア島に行き,同地の王コカロスKōkalosに殺されたという。…
… 古代の迷宮文様は,クレタ島,クノッソスの宮殿を舞台とする神話を背景として,呪符あるいは護符としての意味をもっていた。すなわち,クレタ王ミノスの妻パシファエと雄牛との間に生まれた牛頭人身の怪物ミノタウロスは,クノッソス宮殿にダイダロスが造った迷宮(ラビュリントス)に閉じ込められていたといい,アテナイの王子テセウスが,クレタ王女アリアドネの手渡した糸の導きでミノタウロスを倒して,迷宮から帰還する。これによって迷宮をあらわす文様は,苦難の旅,近づきえないもの,死からのよみがえりの象徴となったのである。…
※「ミノタウロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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