海洋を支配し,魚類を統治・管理する神。神話や伝説によって知られるにすぎないものから,人々によって信仰され,儀礼の対象になっている神々まである。航海神としての性格の強い神,漁業神としてあがめられる神,双方の特色を備えた神など種々ある。海の最高神として知られるギリシアのポセイドンなどは,嵐を起こしたり鎮めたり,海戦を有利に導くとされるから,漁業神としてよりも航海神,戦神としての性格が強い。イグルリク・エスキモーは海の諸動物を統治する女神セドナSednaが彼らの生存を支えてくれていると信じている。セドナが立腹すると漁獲物が極端に減少し,生存が危機にさらされる。そのようなときにはシャーマンが供え物を携えて海底の女神を訪ね,とりなすことが必要とされる。西マレーシアのケランタン州の漁民は,漁労が〈海の精霊hantu laut〉によってある程度影響されると信じている。漁獲量を増やすためには海の精霊を慰撫する儀礼を行わなければならない。その最も重要なものは,船と網への儀礼であり,精霊の協力を得るため食物その他を供えることである。
日本でも海神への信仰習俗は航海者や漁民の間に広く見られる。日本の海神信仰の要素は複雑であり,単純な整理を許さない。海底には綿津見(わたつみ)の神の宮殿があり,この神は海の支配者であるとともに,魚族の支配者でもあるという観念はきわめて古くから存在した(《古事記》など)。〈えびす(恵比須)〉を海から寄り来る神霊として,海幸を招来するものとする信仰は各地にあり,海難者の死体や海中から引き上げた石や寄り物を〈えびす〉と呼んで丁重に扱う習俗も広く分布する。香川県金刀比羅宮の金毘羅大権現や山形県善宝寺の竜神などは航海安全の神として航海者の信仰を集めている。また媽祖(まそ)(天妃)信仰や船霊(ふなだま)信仰は,各地の漁民の間で行われている。船幽霊や海坊主は海の精霊であり,さらに各地の〈カゼ(風)〉も半ば精霊とみなされている。
執筆者:佐々木 宏幹 一般には水神の表徴である蛇信仰が中国の竜信仰と結びついた竜神の同意語として,竜宮・竜王などと呼ぶ場合が多い。海神を祭る神社の主要なものとして,宗像(むなかた)大社,住吉神社,大山祇(おおやまづみ)神社,金毘羅社などが全国的に勧請流布している。海神祭は神霊を奉安した御輿を海中渡御(とぎよ)するものをはじめ,御旅所神幸や競漕するものなどが見られる。沖縄本島北部の村々では,海神を迎える海神(うんじやみ)祭が盛んで,海神と山神との交遊する日の祭りという。付随して爬竜(ハーリー)と呼ぶ舟漕ぎ競争が催される。ハーリーは中国から伝来したといわれ,長崎のペーロンも同系統のものと思われる。海民の海上での禁忌は厳しく,沖言葉という忌詞(いみことば)がある。なかでも蛇,猿という言葉を忌むのが特徴で,蛇は海神の表象だからであろう。
執筆者:北見 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
海(わた)ツ霊(み)とも書き、海に住む神霊を表す。中国の「海若」から海童、少童ともいい、「わた(海)」は朝鮮語Pataと同源とされて海洋的他界もさす。記紀神話の海幸(うみさち)・山幸(やまさち)神話は、本来海洋的他界よりその呪力(じゅりょく)を与えられる神話であり、海神はこの他界を支配し、風波、干満、雨水をつかさどる神とされている。しかし海神国も、水江浦島子(みずのえうらしまこ)の伝承では常世(とこよ)(万葉集)、蓬莱山(ほうらいのやま)(雄略(ゆうりゃく)紀)とよばれ、神仙思想を受けて変容する。なお海神には、安曇(あずみ)氏の海神(わたつみ)三神、宗像(むなかた)三神、住吉(すみよし)の三神がある。
[吉井 巖]
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