ポセイドン(読み)ぽせいどん(英語表記)Poseidon

翻訳|Poseidon

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポセイドン」の意味・わかりやすい解説

ポセイドン
Poseidōn

ギリシア神話の海神。クロノスとレアの息子。兄弟のゼウスおよびハデスとともにティタンたちと戦って勝ったあと,くじ引きで世界を分け合い,支配領域として海を引き当てた。妃のネレウスの娘アンフィトリテとともに海底宮殿に住むが,オリュンポスにも住居をもち,アンフィトリテ以外にも多くの女神や人間の女と交わって子をもうけた。キュクロプスたちの贈り物とされるみつまたの矛を持ち,それで自在に海に波を起したり静めたりする。またこの矛で地面を打つと,泉を湧出させることができる。しかもポセイドンは,古くから「大地を保つ神」などとも呼ばれ,地震の神として恐れられており,大地および地上や地下の水とも結びつきが深い。アルカディア神話では,彼は大地女神デメーテルを雄馬に変身して犯し,密儀の主女神デスポイナと1頭の馬をデメーテルに生ませたとされる。またゴルゴのメドゥサも彼に犯された結果,ペルセウスに首を斬られたとき,傷口からクリュサオルと神馬ペガソスとが誕生したといわれることから,メドゥサも元来は地母神であった可能性が強い。この2つの話からうかがわれるとおり,彼は大地を妊娠させ,その胎から泉とともに作物の実りや,ギリシア人によって地下界と結びつけられた馬などを誕生させる,大地の夫としての性格も古くからもっていたと考えられる。ポセイドンという名も元来は「大地の夫」の意味であったとする見方が有力である。アポロンとともに,ラオメドン王のためにトロイ城壁を築いてやったのに,約束された報酬の支払いを拒否されたことからトロイに深い遺恨をいだき,トロイ戦争では終始ギリシア方を援助した。またアテナ女神とアテネの所有権を争って敗れ,腹いせに津波による洪水を起したという話も有名である。

ポセイドン[アルテミシオン]
Poseidōn; Poseidon of Artemisium

ギリシアのエビア (エウボイア) 島北岸,アルテミシオン岬沖の海底から,1926年および 28年にそれぞれ本体と両腕が発見された古代ギリシア彫刻。ブロンズ,像高 209cm,アテネ国立考古学博物館蔵。『デルフォイ御者』と並び,数少い貴重な大ブロンズ彫刻の遺品の一つ。左足を前に,右足は軽くひきつけ,左手を水平に前方に伸ばし,後方に引いた右手に持ったものをまさに投げようとしている有髯の像。明らかにポセイドンあるいはゼウスを表わしたものであるが,そのいずれであるかについては種々の説があり明確ではない。また,この像の作者についても,カラミス,オナタスなどの説がある。厳格様式による前 460~450年頃の作。

ポセイドン
Poseidon

アメリカ海軍潜水艦発射弾道ミサイル SLBM。1970年開発。C-3型は 10~14個の MIRV化された弾道ミサイル(50kt×10~14)で,射程 4630km,全長 10.4m,直径約 1.8m,発射重量約 29.2t,推進方式は 2段固体ロケット。ラファイエット級原子力潜水艦(→ポセイドン潜水艦)に装備されたが,1992年に実戦配備体制を解かれた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポセイドン」の意味・わかりやすい解説

ポセイドン
ぽせいどん
Poseidon

ギリシア神話の海の大神。ゼウスと兄弟で、海と河川、泉などの水域を支配するが、もともとは大地の神であったらしい。そのことは、彼の名が古くはポセイダオンPoseidaon、またはポテイダンPoteidanなどとよばれて「ダの夫」の意と解されているからで、つまり「ダ」は豊穣(ほうじょう)の女神デメテル(「母神デ」の意)の「デ」と同一で、大地母神デメテルの夫と説明される。デメテルが娘コレを探して遍歴中、ポセイドンが女神に挑みかかったが、女神は恐れて牝馬(めすうま)に姿を変えたので、ポセイドン自身も牡馬(おすうま)となって女神と交わったという伝承がある。馬はもともと大地と密接な関係があり、ポセイドンには「馬の神」Hippiosという称号があった。このほか「大地を揺り動かす者」Enosichthonとか「大地を保つ」Gaieochosなどの呼称からも、大地の神としての性格がうかがえる。デメテルと同様にその名の「デ」あるいは「ダ」の意味は不明ながら、名称はギリシア語系であり、2人は古い時代にギリシア人に崇拝されていた一対(いっつい)の配偶をなす神々と思われる。彼の本拠はエウボイア島に近い海底で、そこに宮殿があり、四頭立ての戦車を駆って地上へ現れる。

 彼の数少ない神話のうちでも有名なのは、アテネとアッティカの主神の座をめぐって争ったエピソードであろう。ポセイドンは馬をつくって人間に乗馬の術を教え、アクロポリスに塩水の井戸を湧(わ)き出させた。次にアテネが、オリーブの木をアクロポリスに生じさせた。結局アッティカの守護神にはアテネが選ばれ、ポセイドンは怒って洪水を起こしたというが、彼はアテネばかりでなく、他の都市の守護神争いにも敗れている。彼は粗野で怒りっぽく、さして魅力のない中年の神として描かれており、その伝説も粗暴で非人間的とさえ感じられる。彼の子はすべて怪物か野蛮な人間または馬であった。またトロヤ戦争ではつねにギリシア軍に味方して、かなり目だった活躍をしているが、それ以外では神話に乏しい。ローマ神話では水の神ネプトゥヌスNeptunusが同一視される。英語名はネプチュンNeptune。

[伊藤照夫]

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