改訂新版 世界大百科事典 「メガネザル」の意味・わかりやすい解説
メガネザル (眼鏡猿)
tarsier
霊長目メガネザル科の原猿の総称。タルシアともいう。1科1属で,フィリピン南部に生息するフィリピンメガネザルTarsius syrichta,セレベス地方に生息するセレベスメガネザルT.spectrum,ボルネオ・スマトラ地方に生息するホースフィールドメガネザルT.bancanusの3種がいる。頭はまるく大きく,顔は鼻口部の突出がきわめて弱いため平面的で,前に向いた非常に大きな目は樹上での立体視につごうがよい。首の関節は融通性に富み,180度回転させて後ろを向くことができる。耳介は膜質で大きく,自由に動かすことができる。指先にはまるく柔らかな肉塊があって,木につかまるときに把握力を助ける役割を果たしている。後肢の第2指と第3指にかぎづめをもつほかは,すべて平づめである。頭胴長は雄が9~16cm,雌が10~16cm。尾長は雄が14~28cm,雌が19~24cmで,先端約1/3には細い毛が生えている。体重は雄が100~170g,雌が90~160gと性差が小さい。体色は灰色のものから茶色のものまである。
主として低地の二次林に生息する。夜行性で,バッタなどの昆虫類やトカゲなどをおもな食物とし,肉食の傾向が強い。体軸を垂直に保って木の幹などにつかまっていることが多く,眠るときもそのままの姿勢である。よく発達した後肢によって,枝から枝へと2m余りも跳躍することができる。単独生活をするか,または雌雄1頭ずつと1~2頭の子どもからなるペア型のグループをつくる。1産1子で,成体の1/2に近い頭胴長をもつ大きな子を生む。大きな脳,平面的な顔,発達した視覚などの特徴が高等霊長類的である反面,左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりよう)の発達が悪いなど,きわめて原始的な哺乳類と共通の特徴も残しており,これらのために,メガネザル下目という独立の分類群が設けられ他の原猿類から区別されている。
執筆者:古市 剛史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報